2020年8月6日木曜日


               8月6日 編集手帳

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 脚本家の故・早坂暁さんは終戦の年、復員途中の広島駅で貨物列車から廃虚の街を見た。闇のなかに、遺体を焼いた時に出るリンの無数の青い光が揺らめいていた◆その光の一つが妹の春子さんだろうと気づいたのは、愛媛の実家に戻ってからのことだ。「お兄ちゃんに会って話をしたい」と旧海軍兵学校に向かったのが、8月6日の直前だったという(随筆集『この世の景色』みずき書林)◆早坂さんといえば、NHKのドラマ『夢千代日記』をご記憶の方があろう。吉永小百合さんが胎内被爆によって白血病を患い、はかなく人生を閉じる女性を演じた◆早坂さんは主人公について人間の「底悲しさ」を書くことができたのではないかと、あるインタビューで語っている。手元の辞書には探しても見当たらない言葉だが、「不当に運命づけられた悲しさ」だという。脚本を執筆する間、春子さんの面影が脳裏をはなれなかったにちがいない◆広島はきょう原爆忌を迎える。青い光が廃虚に揺らめいてから、75年が過ぎようとしている。いかに時が移ろうと、しっかり受け継いでいきたいのは底悲しさの記憶だろう。

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