集中治療後症候群<2>復帰見据え早期リハビリ
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愛知県蒲郡市の杉浦光行さん(65)は、両脇と両足を支えられ、そろりと立ち上がった。2015年秋、敗血症で同県豊明市の藤田医大病院(旧・藤田保健衛生大病院)に入院し、集中治療室(ICU)で目が覚めてから10日後のことだ。 人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)、透析の機械、たくさんの点滴の管がまだ体についている。「こんな状態で動いて大丈夫なの?」。おっかなびっくりだった。
集中治療後に筋力低下や認知機能の低下など、心身に様々な症状が出る集中治療後症候群。知られ始めた10年ほど前までは、ICUの患者は安静に寝かされるのが普通だった。現在は退院後の生活を見据えて、できるだけ早期からリハビリテーションが始められる。
リハビリは、血圧や痛みなど全身状態を注意深く観察しながら、段階的に行われる。患者の意識がない時から、理学療法士らが手足の関節などを動かす。自力で起きられない時には、ベルトで体を固定し、立った姿勢が取れるベッドを使うこともある。なぜ、そこまでして、積極的なリハビリを行うのか。
徳島大病院の研究では、ICU患者の筋肉量は、1週間で上肢は最大17%、下肢は最大21%低下した。同病院救急集中治療部助教の中西信人さんは「全身の炎症や治療の影響で、重症患者は筋力が急速に衰えることが分かってきた」と指摘する。寝たきりで身体が衰える廃用症候群と比べても、速い印象だという。
早期にリハビリを行う効果については、退院時の自立度改善や入院期間の短縮などが、海外では報告されている。
仕事に復帰するという強い意志でリハビリを続けた杉浦さん。自力で歩けるようになり退院したのは、初めて立ち上がった日からさらに約40日後のことだ。
退院後しばらくは大変だった。体重は入院前より20キロ減。少し歩くだけで疲れる。駅で階段を下りる時、足が前に出ず、手すりにしがみついた。日常生活そのものがリハビリだった。「体が元に戻ったと思えるまで半年かかりました」と杉浦さんは振り返る。
集中治療後症候群の影響は長期間続く。敗血症患者を対象とした海外の研究では、退院から6か月以内に3分の1が死亡。3分の1は6か月後も、洗面や着替え、歩行などの日常生活動作が困難なままだった。同様に、数年後も身体機能が回復しないことを示す報告が海外では相次いでいる。
杉浦さんを担当した集中ケア認定看護師の河合佑亮さんは「ICU入室時から退院後の生活を意識したリハビリやケアが必要だ」と話している。
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