兵庫県の南東部に位置する芦屋市は、白洲次郎や谷崎潤一郎など各界の重鎮が居を構えたというこの地にはパチンコ店やゲームセンターがほとんどない。実はお笑いコンビ、ジャルジャルの福徳秀介(36才)も芦屋出身。実家は3階建てで、暖炉があり過去にはサウナも完備されていたお屋敷だ。
「確かに、たむろする場所がないし夜遊びもできないからか不良少年は全くいませんでした。街で声をかけられるときも、普通だと『ジャルジャルや~』と声をかけられるんですが、芦屋だと小学生から『ジャルジャルの福徳様でしょうか。握手してもらってもよろしいでしょうか』と言われたほどです(笑い)」(福徳・以下同)
“芦屋市民御用達”のグッズもある。
「市内にあるデパート『大丸芦屋店』や高級スーパーの『いかりスーパー』で提供される袋のデザインが“かわいい”“おしゃれ”と評判で、友達の家に遊びに行く際にちょっとした手土産を渡すときや、学校で夏休みに物を持って帰るときなどに使うのが定番でした。いまでもいかりスーパーの紙袋を持っているだけで声をかけられたりするので、ステータスなのかもしれないなあ、と思いますね」
また、福徳によれば一口に芦屋と言ってもそこにはヒエラルキーがあり、トップに君臨するのが、「六麓荘町」(ろくろくそうちょう)なのだという。
現地を訪ねてみると、大きなお屋敷が建ち並ぶほか、コンビニやスーパーはもちろん、自販機や信号、電柱すらないうえ、人も歩いておらず異世界に迷いこんだ気分にすらなる。地元のタクシー運転手にそれを伝えると、笑いながら教えてくれた。
「最寄駅の阪急芦屋川まで徒歩30分くらいかかるから、歩く人なんておらんのです。みなさん自分で車を運転するか、運転手つき。奥さまがたもベンツやポルシェに乗ってますね。買い物はいかりスーパーか、御用聞きさんでまかなっているお宅がほとんどです」
六麓荘の物件を扱う「Oh!不動産」社長の幸保和明さんが解説する。
「六麓荘は全世帯で250軒しかなく、しかも長く住まわれるかたがほとんどで売買の動きは極めて少ない。規約では400平方メートル以上からの土地販売が可能ですが、400平方メートルという敷地は少なくて、だいたい1000平方メートル超が多いんです。もし六麓荘で新たに家を建てる場合、土地代に3億、建物代に3億。ほかに庭などの外構費を含めて、7億円ほどになりますね。
ただし、お金さえあれば家を建てられると思ったら大間違い。新築と増改築には六麓荘町内会と芦屋市両方の承認が必要となります。新築は個人の住宅のみに限定されていて、高さは2階建て以内、緑地部分10平方メートルにつき高木1本と中木2本の植樹、敷地の4割は庭(緑地)、門扉は内開き…など条例で細かく定められています」
驚くのは『六麓荘倶楽部』と名づけられた公民館の維持費や、50メートルごとに設置されている町内の防犯カメラの費用などは行政に頼ることなく町内会の予算のみでまかなわれていることだ。この維持管理は町内会の入会賛助金により運営されていて、その額はなんと50万円。そのほか町会費が年1万2000円、積立金が年600円となる。
「車移動が暗黙のルール」なのは兵庫県西宮市の高台に位置する「苦楽園」も同じ。
「最寄り駅から徒歩15分以上かかるうえ、急な坂道が続くため、自転車も使えない。しかも景観を守るために建築制限があり、スーパーやコンビニがない。利便性は低いですが、街全体が高い所にあるため、神戸の街を一望できる。この絶景はお金に代えられません」(苦楽園の住民)
悪く言えば排他的、よく言えば住む人をがっちり守るこのような厳格なルールだが、そもそもなぜ設けられるようになったのか。
「大きな理由として考えられるのは、バブル期に暗黙の了解としてあった町内会協定を破ろうとする人が出てきたこと。六麓荘でも、大きな敷地を分割したり、庭や樹木のない小区画の家を建築する例が相次ぎ、住民たちの中で、街が変わっていく危機意識が生まれたのです」(幸保さん)
街への愛と覚悟、そして何よりお金がないと、高級住宅街には住めないといったところか。
※女性セブン2020年9月3日号
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