サバクトビバッタは「世界最古の害虫」と呼ばれ、旧約聖書やコーランにも登場する。体長5~7センチ、体重約2~4グラム。数が増えて密度が高くなると、体色が茶色から黄色などに変化して大群をつくる。群れは風に乗って1日最大150キロを移動する。1平方キロ(約4千万匹)の群れは1日あたり約3万5千人分の食糧を食べてしまう。
サバクトビバッタの大群の発生状況を調査する国連食糧農業機関(FAO)によると、異常繁殖のきっかけは、2018年の5月と10月、中東のアラビア半島の砂漠地帯を襲ったサイクロンだ。同半島に年2回もサイクロンが上陸するのは異例で、地面が産卵に適した湿った状態になって一気に繁殖した。その後、他の中東地域、アフリカ東部、南アジアなどに拡散した。
FAOは今年5月に出したサバクトビバッタによる被害の報告書で、推計数千億匹の群れが飛来したアフリカ東部と、中東イエメンで「計約4200万人が食糧危機に直面するおそれがある」と警告。今年1~8月に計21カ国、延べ約191万ヘクタール(東京都の約9倍)でバッタ駆除を支援した。
サバクトビバッタを研究する国際農林水産業研究センター研究員の前野ウルド浩太郎さん(40)によると、今回の大発生は歴史的に見ても規模が大きいという。
被害を受けているのは、国民の所得が低く、福祉や教育の体制が脆弱(ぜいじゃく)な国が目立つ。こうした窮状に、新型コロナの感染爆発が追い打ちをかけている。移動の制限で殺虫剤の調達や散布が滞り、新たな財政負担で貧困層がしわ寄せを受けている。
殺虫剤が散布できた場所でも、作物が売れなくなったり、残留した殺虫剤が原因とみられる家畜の死亡が相次いだりしている。収入が断たれ、来年の作付けを諦める農家も出ており、日本を含む各国政府や国際機関、NGOが緊急の人道支援に乗り出している。
FAOのキース・クレスマン上級バッタ予報官は「バッタの被害は食糧難や貧困を引き起こし、さらなる人道危機をもたらしうる」と指摘する。(半田尚子、遠藤雄司)
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