※本稿は『THE21』2020年7月号から一部抜粋・編集したものです
■最後のお別れこそ、その人らしくあっていい
自分たちらしさを表現する結婚式が増えているように、「その人らしさ」を表現したお葬式があってもいいのではないか――。
そんな考え方から、「家族葬」という葬儀のスタイルを提案しているのが、私たち、「家族葬のファミーユ」を展開する、きずなホールディングスです。家族葬とは、ひと言で言えば、家族や親しい知人だけを呼び、少人数で行なうご葬儀のこと。
従来のご葬儀は、喪主様にとってものすごく忙しいものでした。理由の一つは、大勢の参列者をお呼びするからです。ただでさえ準備や儀式に追われているのに、参列した方にご挨拶をしていると、てんてこまいに。気づいたら、すべての儀式が終わっていた……となりがちです。
それに対し、家族葬は、お呼びする方を限定するので、参列者への対応の労力が減ります。そのぶん、故人との最後の時間を家族でじっくり過ごせます。
しかし、そう望んだとはいえ、大きな斎場で、盛大な葬儀を行なっている隣で家族葬を執り行なうと、寂しく感じてしまうものです。そこで当社の家族葬は、コンビニ1店舗ほどの広さの直営ホールで行ないます。現在は7道府県に80余りの直営ホールを所有していて、各ホール1日1組限定です。これなら、他の人の目を気にすることなく、故人をお見送りできます。
当社の家族葬のもう一つの特徴は、「オリジナルプラン」です。こちらは、故人を偲ぶオリジナルの祭壇や展示をオーダーメイドで作り上げるものです。
「山登りが趣味だった故人に向けて、山の風景を模した祭壇を作る」「故人のライフイベントを歴史的な出来事とともにたどる生涯年表を作成する」「釣りが好きだった故人のために、額縁に入れた魚拓や釣り竿を飾る」などが、その例です。こうした思い出の品を展示することで、遺族が故人との思い出を振り返ったり、感謝の気持ちをしっかり伝えたりできます。
「オーダーメイドのオリジナルプランというと、費用も高額なのでは?」。そう思うかもしれませんが、もともと家族葬は、安価で明瞭な価格設定をするというコンセプトでやってきました。ですから、オリジナルプランも平均130万~150万円でご提供させていただいています。一般的な葬儀と比べても、高くはないはずです。
現在はオリジナルプランが全体の20%以上を占めていて、2019年は年間1500件を執り行ないました。
喪主の皆様にはご満足いただけているようで、「悲しみの中にも幸せな気持ちが生まれてきて、すごく不思議な気分でした」という声をよくお聞きします。
■採算が合わないプランにあえて挑んだ
当社の前身であるエポック・ジャパンが設立されたのは00年のことです。「新しい葬儀の形を生み出そう」と全国の葬儀業者の有志が集まって、誕生しました。
その創業者であり、宮崎で葬祭業を営んでいた高見(信光氏)が発案したのが、「家族葬」です。01年10月に日本初の家族葬ホールをオープン。当初から、明瞭な価格体系の、家族だけの葬儀というコンセプトで行なってきました。
当初は、家族葬を行なっているのは当社だけでしたが、徐々に他にも取り扱う会社が増えてきました。そこで、差別化を図ろうと、3年前からオリジナルプランを始めたのです。
オリジナルプランを行なう同業他社は、ほとんどありません。なぜなら、まったく採算に合わないからです。
通常、亡くなってからご葬儀までは1~2日間程度。その間に、ご遺族から写真や過去のエピソードをいただいて、祭壇や展示品を作り込むのですが、とにかく仕事量が多く、通常の葬儀の10倍ぐらいの手間がかかります。当社も、始めた当時は大赤字でした。
しかし、その人らしい家族葬をしたいというニーズは絶対にある。そう確信していたので、オーダーメイドのノウハウを築き上げ、スタッフをトレーニングしました。結果、3年でようやく採算ベースに乗りました。
また、スタッフに過剰な負担をかけてはいけないので、ここ3年間で、スタッフの数を2倍近くに増やしました。利益率は下がりましたが、労働環境を大きく改善でき、長く働き続けられる会社になったと自負しています。そのかいあってか、「ファミーユで働きたい」という従業員が同業他社から次々と入ってきています。
■想いを共有できる会社を巻き込んで全国展開へ
上場を目指した理由の一つは、透明性のある、信頼できる葬儀会社という選択肢を作りたかったからです。葬儀社は地場の小さな会社が多く、上場企業がほとんどありません。この状況を変えたかったのです。
もう一つの理由は、全国展開を目指すためです。
設立当初から目指していましたが、15年間で5道県・50ホール程度に留まっていたので、近年は、地場の葬儀会社のM&Aに力を入れており、16年と18年に愛知県と京都府でそれぞれ1件ずつのM&Aを実行しています。上場すれば知名度が上がり、資金調達もしやすくなるので、さらにM&Aが進めやすくなります。
ただ、当社のビジネスモデルは、想いを共有していただかないと実行できないので、やみくもにM&Aをしても意味がありません。同じ想いの会社と組んでいきます。
私たちは、日本のすべての葬儀が家族葬になればいいと思っているわけではありません。あくまで、希望する方に選択肢をご提供したいということです。そして、ご遺族が「悲しみの中にも幸せな気持ちが生まれてきた」と感じられる葬儀を一つでも増やしたい。そう考えています。
中道康彰(きずなホールディングス代表取締役社長兼グループCEO)
(『THE21オンライン』2020年07月10日 公開)
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