2020年8月21日金曜日

とんでもない酷暑が襲来。心に留めておきたい「熱中症死」の新常識とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン 提供 とんでもない酷暑が襲来。心に留めておきたい「熱中症死」の新常識とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

体力を奪う連日の「危険な暑さ」
熱中症に過去の常識は通用しない

8月に入って以降、とんでもない酷暑の毎日が続いています。
 8月17日には、浜松で国内最高のタイ記録となる41.1度の最高気温が観測されました。浜松市も合併してエリアが広くなっていますが、今回最高気温を観測したのは中区、つまり浜松駅付近の都市部での出来事でした。例年でいえば、浜松市では天竜区のような内陸部の方で気温が高くなる傾向がありましたが、今回はフェーン現象が起きて、浜松市の中心部が記録的に暑くなったということです。
 残念ながら、今年の夏も熱中症による病院搬送や熱中症死が増加しています。熱中症死の増加傾向には明らかに地球温暖化が関係しており、昭和の時代にはほぼ毎年2桁程度に収まっていた熱中症の死者数が、近年では4桁にのぼる年が珍しくありません。
 少なくともこの8月に関していえば、私たちの最も身近にあるリスクが、思わぬ熱中症死だと言えるでしょう。熱中症には、新型コロナウイルス感染症との共通点が2つあります。1つは高齢者にとって、死を伴うリスクが高いこと。そしてもう1つは、これまでの常識が通用しないことです。
熱中症死について、これまでの常識がどう通用しないのかをまとめると、次の3つのポイントが挙げられます。

新常識1】ある年、突然熱波がやってくる
【新常識2】これまで大丈夫だった家や地域が危ない
【新常識3】夜の室内が最も危険

 これら熱中症の新しい常識について、詳しくまとめてみたいと思います。

【新常識1】
ある年、突然熱波がやってくる

熱中症死が増加するのは、毎年の年中行事だとお考えかもしれませんが、1つ見落としてはいけないことがあります。それは、熱中症の死者数には年によって大きなばらつきがあるということです。
 近年でいえば、2010年と2018年が1500人を超える死者を出した年ですが、一方で2008年、2009年、2012年、2014年、2016年、2017年はその半分以下、つまり750人よりも死者数が少ない年でした。
 これは、スーパーコンピュータの地球環境シミュレータの予測とも合致するそうですが、熱中症死が激増するような酷暑の年は、7年くらいの周期でやってくるそうです。そこまで暑くなくても、死者が900人を超えるような厳しい暑さの夏は、2~3年に一度やってきます。このように、夏の暑さは均等ではないのです。
 熱中症死のデータは、例年2月頃に前年の速報値が出ますが、今年は新型コロナ騒動で厚生労働省がそれどころではないからでしょうか、2019年のデータはまだ公表されていません。とはいえ「2018年の夏は特に死者数が多かったから、そのあとの6年くらいは安心してもいい」というのも間違いです。
 10年ごとの熱中症の平均死者数を調べると1970年代と1980年代はともに65人でしたが、1990年代に190人、2000年代には398人と被害が急増し、2010年代の年平均の熱中症死者数は980人まで増えています。
 つまり、最近の暑い夏は約1000人の死者が出るのが平均であり、かつこの傾向は2020年代にはさらに激化する可能性があるのです。そうなると恐ろしいのは、いよいよ日本にも熱波が襲ってくるのではないかという予測です。
 近年で最も多くの犠牲者を出した熱波の1つが、2003年にヨーロッパを襲った500年ぶりの熱波災害で、死者数は5万2000人。被害が最も大きかったフランスでは、1万5000人が亡くなりました。
 日本には、このような規模の熱波が襲来したことはありませんが、気を付けるべきことは、地球温暖化の影響は日本でも避けることができないということです。実際に日本でも2001年に「観測史上最も暑い夏」があり、その後、2010年にも「観測史上最も暑い夏」がやってきています。
 今年か来年か再来年か、それはわかりませんが、おそらく近い将来また、「観測史上最も暑い夏」がやってくるはずです。そしてそれは、過去日本ではなかったような熱波の夏になるのかもしれないのです。

【新常識2】
これまで大丈夫だった
家や地域が危ない

さて、冒頭に浜松市で日本最高記録タイとなる暑さが記録された話をしましたが、地球温暖化ではこれまでと比べて地球全体で気圧配置が微妙に変化することで、各地域の気候が過去とは違ったものになると予測されています。2000年代に入って西日本で豪雨災害が増加したのも、その影響の1つです。
 この点は、私たちにとってとても注意が必要なことです。2003年のヨーロッパの熱波で死者が最も多かったのはパリでしたが、その理由は「それまでパリではエアコンが必要ではなかったから」なのです。
 私は1999年に1年間、ハワイに住んでいたことがありますが、当時住んでいたハワイの戸建て住宅には、エアコンがありませんでした。天井のくるくる回るレトロな大型扇風機の羽を回して、窓を網戸にしておけば、外から涼しい風が入ってきます。今でもハワイにはエアコンのない住宅が少なくないのですが、いつまでその状況が続くかはわかりません。
 緯度が高く気候が涼しいパリも同様で、冬の暖房は必要でも、それまで夏のエアコンは必要がなかった。ここが大きな落とし穴で、2003年の夏に熱波が突然襲来した際には、多くの高齢者が「これまでの夏とは暑さが違う」と感じながらも、何も対応できずに熱中症の被害に遭ったそうです。
 ここで、新しい対策をとる必要が出てきます。それが3つ目の新常識です。

【新常識3】
夜の室内が最も危険

夏の熱中症死は、実は室内が最も危険です。よくニュースなどで耳にする体験談としては、炎天下の屋外での作業中に気づいたら、熱中症にかかっていたというものがあります。つい作業に没頭するうちに、水分補給するのを忘れてしまう。気づいたら体が動かなくなっているという話です。
 ところが、これらの話は熱中症から生還できた比較的若い人の話だと思ったほうがいいのです。現実には、熱中症死の8割は高齢者だという事実があります。そしてその多くが、室内で熱中症にかかっています。
 前述のパリの熱波の話も同様で、とにかく暑くてたまらない夜、窓を開けて扇風機もかけていたのだけれど、気づいたら熱中症で動けないというケースが報告されています。高齢世帯の実際の体験談では、ご主人は自力で救急車を呼ぶことができたけれど、奥様の方は亡くなってしまったという話もありました。
 これからの日本で危惧されているのが、このような夜間における熱中症被害の増加です。これまで必要がなかったことからエアコンが設置されていない、ないしは「寝るときは冷房を切らないと体に悪い」という過去の常識を信じてエアコンをつけずに就寝している――。そんな家庭は少なくないはずです。
 ある年、そんな地域に、過去に経験したことがないような暑い夏が訪れる。これは2020年代を通じて、多くの地域で警戒が必要なシナリオです。

寝ているうちに体調急変も
この夏を何とか乗り切れるか

この問題には、高齢者にとっていくつも罠があります。年をとると、過去の常識を意識的に変えることがなかなか簡単ではないことが1つ。つまり新しい災害への準備ができないのです。仮に常識を変えたからといって、「夏が危険なほど暑い」と気づいたときにエアコンを設置しようにも、その夏に業者が来てくれない場合もあります。
 そして、風通しをよくして枕元にペットボトルを置いて寝たとしても、寝ているうちに体調が急変して、給水できずに倒れてしまうこともあるため、本当に対応は簡単ではありません。
 一番重要なことは、「夏の熱中症の怖さが2020年代にはさらに変化するかもしれない」と覚悟し、今回ご紹介した3つの新常識を繰り返し思い出しては再認識することです。常識が変わったということを、たくさんの人が何度も話題にするようになれば、少しでも多くの高齢者が今年の夏を乗り切るための「気づき」になるのではないかと考えるのです。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

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