2020年8月21日金曜日

 
   米映画『俺たちに明日はない』は多くの方におなじみだろう。世界恐慌時代に実在した銀行強盗をスタイリッシュな映像で描く◆出会ったばかりのボニーとクライドにこんな会話があったのを思い出す。「どんな気分?」「監獄のか」「強盗よ」「最高さ」。クライド役のウォーレン・ベイティと似てはいないものの、もしその人を描くなら華麗な犯罪映画にはしないでほしいものである◆レバノンに逃亡した日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告(66)が友人に明かしたという。米国の動画配信会社から「脱出劇」の映画化を打診されたと◆「不正義に直面する人の参考になるかもしれない」とも語っている。思い描くのは、会社に尽くした経営者がぎぬを着せられ、陰謀から命からがら逃れるスリリングな物語だろう。映画には実在の強盗をヒーローに変える魔力があるかと思うと、少々やるせない気持ちになる◆ゴーン被告の近況は、国税の調査で新たに10億円の私的流用が判明したとする記事とともに伝えられた。「どんな気分?」「監獄のか」「流用よ」「最高さ」。不快なセリフを想像してしまった。

         8月21日 よみうり寸評


 心当たりのない郵便物が届く。中国郵政と書かれた封筒の中には植物の種――先日の社会面に載った気味の悪いニュースから、名探偵ホームズものの一編『オレンジの種五つ』を連想した◆同じく種入りの手紙が登場人物に届いて事件が始まる。こちらの封筒にはKKKと記されていた。クー・クラックス・クラン、米国の白人至上主義団体である◆19世紀のこの小説に崩壊したとあるKKKが現存するのを知ったのは、3年前の今時分だ。メンバーらと差別反対派の衝突を巡り、「非は双方にある」と大統領が発言して物議を醸した◆思えばトランプ政権誕生以来、いかに多くのことを米国について知ったろう。経済格差を背景とする社会の分断に差別の実態、移民に対する一部国民の反感…気がかりながらも門外漢には目新しいニュースにふれてきた◆野党・民主党の党大会が最終日を迎えた。大統領選本選の投開票まで2か月余、自由と繁栄を謳歌おうかする大国のかじ取りが決まるという単純な視座を離れて、攻防を注視する。

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