2020年9月18日金曜日

 

© All About, Inc. 主婦がパートやアルバイトで働く時には、夫の「扶養範囲内」に収入をおさえたいと考える人も多いでしょう。103万・130万・150万の壁を超えたら本当に損をするのでしょうか?

主婦のパート年収はいくらまでに抑えるといい?

子育てが一段落すると働くママが増えてきました。教育費などがかかるようになり、家計の収支を考えると専業主婦より有利になるからでしょうか。主婦が仕事を再開するのは、ライフイベントの中でも大きなポイント。その後のライフプランニングも大きく変わってきます。

この主婦が働く時によくいわれるのが「扶養の範囲」で働くということ。本当にこの範囲で働くのが一番いいのでしょうか?

主な収入を得ている夫とパートタイマーとして働く妻の夫婦で、2018年から適用されている新しい配偶者控除の場合の試算をしてみたいと思います。

妻の所得税がかからないのは、103万円以内

まずは、妻自身が税金を払うところを見ておきましょう。住民税は自治体によって変わりますが、給与年収93万円から100万円を超えると住民税を支払うことになります。また、所得税は、給与年収103万円超で支払うことに。ただし、これらの税金は収入増以上にかかることはありませんので、あまり深く考えなくてもいいでしょう。

ただし、夫の会社で配偶者手当のような支給がある場合、その要件として妻の年収が103万円以内とある場合もありますので、ご注意を。

社会保険(年金・健康保険)は130万円(一部106万円)がライン

次に、「扶養の範囲内」で働くということを考えましょう。最初に社会保険でいう「扶養」です。社会保険とは、年金や健康保険などのこと。サラリーマンの妻は、“ある収入”以下であれば、健康保険の被扶養者になっています。

その額は「年収130万円」。年収130万円を超えると、夫の扶養からはずれ、自分で健康保険に入る必要が出てきます。

年金も同じように、年収130万円以下だと第3号被保険者となり、国民年金の保険料を納めなくていいのです。年収130万円を超えると、健康保険や年金の保険料を自分自身で払わなくてはいけないということになります。

保険料の自己負担はかなり大きなものになります。社会保険料は、収入の約15%近く。かなりの負担といえます。勤め先で健康保険や厚生年金に加入できればまだいいですが、そうでないと国民健康保険や国民年金に加入することになり、その負担額は更に増えるでしょう。

ただし2016年10月より、「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」として、以下の条件にあえば扶養に入るかどうかという以前に、妻自身で社会保険に加入することになります。

1)週20時間以上

2)月額賃金8万8000円以上(年収106万円以上)

3)勤務期間1年以上見込み(2022年10月からは撤廃)

4)学生は適用除外

5)従業員501人以上の企業(2017年4月より 労使の合意があれば501人未満でも加入可能)

(2022年10月より)101人以上の企業

(2024年10月より)51人以上の企業

この時は、「130万円の壁」を「106万円の壁」と読み替えてください

配偶者控除等が受けられるのは、150万円以内

次に、税金でいう「扶養」を考えてみます。この場合は、夫の税金を計算する時に配偶者控除・配偶者特別控除を受けられるかどうかということ。つまり、夫の税額(所得税・住民税)を専業主婦の時と同じ額に抑えながら働くということです。2017年度の税制改正で配偶者控除・配偶者特別控除が大きく変わり、2018年より適用される制度が変わりました。

この配偶者控除・配偶者特別控除を最大限(控除額38万円)受けられるのは、配偶者の給料が年間150万円以下の時です。ただし、本人の給与収入が1220万円以下でないと控除を受けることはできません。

つまり、主婦のパートを年間150万円以下の給料に抑えておけば、夫の給与年収が1220万円以下であれば、配偶者控除等を受けることができ、控除額によっては税額が増えないということです。

厳密にいうと、配偶者の所得が95万円以下(令和2年以降。令和元年までは85万円)で配偶者控除・配偶者特別控除で最大の控除が受けられます。所得というのは、収入から経費を引いたもの。パートなどの給与所得者は、経費として給与所得控除が最低55万円(令和2年以降。令和元年までは65万円)認められています。なので、妻の年収150万円以下であれば、夫が配偶者控除等を受けられます。

ここで注意したいのが、配偶者の仕事がパートなどでなく自営などの事業の場合。給与所得控除55万円(令和2年以降)はありません。つまり、配偶者(主婦)が自営業など給与所得者でない場合は、所得が95万円以下(令和2年以降)であれば、夫が配偶者控除等を受けられます。

配偶者控除等の本人(夫)の所得制限は、給与年収1120万円を超えると控除額が減り、1220万円を超えると控除がなくなります。夫の給与年収が1220万円を超えている場合は、妻の年収はいくらでも夫の税金は変わりません。

このように、103万円、150万円や130万円、106万円の壁が出てきました。では主婦が働く時、年収をどれくらいにすると一番お得なのでしょうか? 

夫の給与年収が500万円のA夫婦の例を考えてみます(子どもは中学生以下が2人。ただし、子どもがいない場合も税金は同額です)。妻の収入で世帯収入はどのように変わるのでしょうか?

(税金の計算は一例です。諸条件により税額は変わりますのでご注意ください)

妻の年収100万円まで:全額、世帯収入アップ

まずは、妻が得た給与が全額、収入アップとなる年収を見ておきましょう。これはずばり「年収100万円」です。年収100万円を超えると妻自身が妻の年収に対して住民税(自治体によっては100万円以下でも住民税がかかる場合があり)を、103万円を超えたら所得税を支払う必要があります。ですので、年収100万円までに抑えると、世帯収入が全額アップとなります。

ただし、103万円までだと住民税を多少払っても、あまり影響は出ません。課税される住民税は数千円程度。そんなに気にすることはありませんね。

■試算結果1: 妻の年収が100万円の場合 

⇒世帯収入が100万円増

妻の年収103万円~130万円(一部106万円):税金が増えても負担は軽い

次に、年収103万円を超えた時を考えてみます。103万円を超えると、妻が所得税と住民税を払うことになりますが、年収に応じて税額が決まりますので、いきなりウン十万円もかかるわけではありません。

A夫婦で、妻の年収が120万円だとすると、妻自身の税金は2万8000円(所得税8500円、住民税1万9500円)。2万8000円の負担増なので、収入が増えた割には、負担はまだそんなに高くはありませんね。妻の収入が120万円でしたから、世帯収入は117万2000円アップと なります。

2017年までは、妻の給与年収103万円を超えれば、配偶者控除が受けられなくなるなどで103万円の壁といわれていました。2018年からは、夫の年収が1220万円以下であれば、妻の年収150万円までは配偶者控除等が受けられます。ですから、妻の給与年収は150万円までは夫の税金は増えることはありません。

ただし、夫の給与年収が1120万円を超えると配偶者控除が減り、1220万円を超えると配偶者控除がなくなります。該当する世帯で2017年に配偶者控除等が適用されていた場合、2018年からは増税となります。

また、一部のパート従業員(※)は、年収106万円を超えると、自ら社会保険に加入することになりますので、保険料の負担が重くなります。

※週20時間以上、 勤務期間1年以上見込み(2022年10月からは撤廃)、学生は適用除外、従業員501人以上の企業(2017年4月より、労使の合意があれば501人未満でも加入可能。なお、2022年10月より101人以上の企業、2024年10月より51人以上の企業に変わる)

この試算では、妻が社会保険に加入することなく、社会保険は夫の扶養配偶者である場合を想定しています。

■試算結果2: 妻の年収が120万円の場合 (夫の年収1120万円以下、妻の社会保険は夫の扶養)

⇒世帯収入が117万2000円増(税負担2万8000円増)

妻の年収130万円(一部106万円)~:税金+社会保険料負担が重い

年収130万円(一部106万円)を超えた場合を考えてみましょう。この時は、妻が夫の社会保険の扶養から外れることになりますから、妻自身で社会保険に加入しないといけません。妻の健康保険と年金の保険料を払うことになります。

勤務先の健康保険に加入できるといいのですが、無理な場合は自分自身で、国民健康保険に加入することになります。これは、自治体によって保険料が変わってきます。

年金のほうも厚生年金に加入できれば、年金負担も軽くなりますし(保険料の半分は会社負担)、老後の年金受給も増えるので安心ですね。厚生年金に加入できない場合は、国民年金に加入する必要があります。

ここでは健康保険、厚生年金に加入できると仮定し、年収140万円になった場合を考えてみます。妻自身の保険料負担が発生し、これを20万円とします(社会保険料負担は約14%強のため)。また、妻自身の税金は2万8000円(所得税8500円、住民税1万9500円。年収120万円の時と同額ですが、これは社会保険料負担があり控除が増えたためです)。

あわせて22万8000円の負担増です。世帯収入の増額は、妻の収入140万円から負担増となった22万8000円をひいた117万2000円となります。

■試算結果3: 妻の年収が140万円の場合 (夫の年収1120万円以下)

⇒世帯収入が117万2000円増(税+社会保険負担22万8000円増)

妻の年収130万円(一部106万円)超えはレッドゾーン

このように見てみると、妻の年収120万円(世帯年収が117万2000円増)と140万円(世帯年収が117万2000円増)では、実質の世帯収入が同じということがわかります。この年収130万円前後は、妻の年収がアップしても、世帯収入があがらないということですね。

妻の年収150万円~:税金が増えても負担は軽い

最後に税金の配偶者控除の壁、150万円を超えた場合です。2018年から所得税の配偶者控除を受ける要件が、配偶者の給与年収103万円から150万円に引き上げられました。配偶者控除を受けるためには夫の年収が1220万円以下と条件がつきますが、多くの世帯では配偶者控除をより多く受けられるようになりました。

とはいっても、先ほどの社会保険の130万円(一部106万円)の壁は超えているわけですから、負担は大きくかかった後にこの150万円の壁があるということです。

妻の給与年収160万円になった場合を見てみましょう。夫の配偶者控除はなくなるものの配偶者特別控除を受けることができます。

夫の税負担アップは9000円(所得税7000円、住民税2000円)。妻自身の社会保険料負担が23万円とすると、税額は5万3500円。負担アップは29万2500円。

■試算結果4: 妻の年収が160万円の場合(夫の年収1120万円以下)

⇒世帯収入が130万7500円増(税+社会保険負担29万2500円増)

年収160万円ほどになると、世帯収入の割合もよくなってきました。となると、年収130万円を超えるなら160万円以上を目指したほうがいいということですね。また、国民健康保険や国民年金に加入する場合はさらに負担が大きくなるので、更に上を目指したいところですね。

自営業の場合、社会保険料負担は変わらず

但し、夫が自営業などで、国民健康保険や国民年金に加入している場合は、最初から妻の方も国民健康保険や国民年金に加入しています。ですので、130万円(106万円)の壁は最初からありません。この場合は106万円、130万円、150万円の壁など何も気にせずに働くのが正解です。

いかがでしたか? 今回は年収500万円、子ども2人の4人家族をモデルにしましたが、他の世帯でも同じような結果になると考えていいでしょう。

主婦のパートは扶養範囲内でと思われている方が多いですが、扶養をはずれてもそんなに世帯年収がダウンすることもありません。年収130万円(一部106万円)前後のゾーンには注意しましょう。頑張って年収160万円以上を目指すと、世帯収入もぐっとアップしますよ。

また、妻自身が会社で社会保険に加入する場合は、将来受給できる老齢年金が増額されますし、妻が病気などで就労できない場合は傷病手当が支給されたりしますので、出ていくお金だけでなくメリットもあります。主婦のパートは扶養以内でなどと制限せずに、どんどん働いたほうがいいと思いませんか?

※税金、社会保険料の計算は概算で算出しています。扶養や控除の関係、加入している健康保険などによって金額は変わります

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