2020年9月18日金曜日

   今から50年ほど前のことらしい。劇作家の井上ひさしさんはラジオ音楽劇の収録でNHKのスタジオに入るなり、黒柳徹子さんに仰天した◆演奏家の使う譜面台を置き、そこにのせた台本を声に出して読みながら出前のラーメンをすすっていたという。<黒柳さんも人であるから口は一つのはずなのに、読むとすするを同時に、しかも矛盾なくこなしていた>と随筆に書き留めている◆井上さんいわく「会うたびにびっくりさせられる人」。テレビ朝日系「徹子の部屋」は今年45年目を迎えている。対談したゲストはどれほどの数になるだろう◆今やほぼ毎日の放送がびっくり、といっても過言ではない。プロデューサー松本修さんが2月、本紙への寄稿で述べている。<86歳の女性が何ら感覚の衰えなく、むしろ心の奥行きをますます深くし、たった一人で軽やかに司会を続けている。世界でも稀有けうなことではないか>◆黒柳さんは先月87歳になった。女性の年齢を上方に改めるのにためらいどころか、喜びを感じる。あすから4連休に入る。暦に敬老の祝日を見たとき、お元気な方がたくさんいてほしいと思った。

9月18日 よみうり寸評


   お盆休みからひと月、一度は元気を取り戻した身と心が、しつこい残暑で再びへばってしまった。そんな折節に慈雨のような4連休である◆休日が4日続くのは、敬老の日の第3月曜が秋分の日の前日にあたるという暦の巡り合わせによる。今年は100歳以上のお年寄りが初めて8万人を突破した中で、この祝日を迎える◆3年前に105歳で亡くなるまで、医師の日野原重明さんは日本で一番有名な100歳超えの人だった。その教えに〈人生はマラソンよりもサッカー〉というのがある(『たった一度の人生だから』)◆マラソンの折り返し後とはちがい、サッカーの後半では新しい時間が刻まれる。人生100年時代のハーフタイムを50歳とするなら、少し手前で国政に打って出た新首相は、日野原さんの哲学の体現者と言えるのかもしれない◆より多くのお年寄りが、目下の人生後半を生き生きと過ごせる世の中に――敬老の日がありがたくて言うわけではないが、政治の大事な仕事だろう。自助ではそれがかなわない人々もいる。

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