■直径100km以上あった小惑星の破片の一部が地球と月に飛来した 寺田健太郎氏(大阪大学)らの研究グループは、風化によって古い時代のクレーターが失われやすい地球への天体衝突の頻度を知るために月のクレーターに注目しました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月周回衛星「かぐや」による観測データをもとに月面に存在する直径20km以上のクレーター59個が形成された年代を調べたところ、直径93kmの「コペルニクスクレーター」を含む少なくとも8個のクレーターが同じ年代に形成されたものであることが判明したといいます。
NASAのアポロ計画で採取されたサンプルやクレーターのサイズなどを考慮した結果、およそ8億年前に直径100km以上の小惑星が破壊され、その破片の一部が地球や月に衝突したことが明らかになったといいます。このとき地球に落下した破片の質量は少なくとも合計40~50兆トン、およそ6600万年前の白亜紀末期に「チクシュルーブ・クレーター」を形成した天体の30~60倍にあたると推定されており、研究グループではこの出来事を「小惑星シャワー」と表現しています。
恐竜を含む生物の大量絶滅をもたらしたと考えられている白亜紀末期の天体衝突については、天体に含まれていたとみられる高濃度のイリジウムが世界各地の地層から検出されています。研究グループによると、8億年前の小惑星シャワーを示すそのような証拠は見つかっていないものの、地球の全球凍結(6~7億年前頃)の直前となる時代に海洋中のリン濃度が4倍に増加し、生命の多様化が促された可能性を示す研究成果が発表されているといいます。
8億年前の小惑星シャワーによって地球にもたらされたリンの量は現在の海洋中のリンに対して10倍ほどと推定されており、小惑星シャワーが当時の地球の環境に大きな影響を与えた可能性を研究グループは指摘しています。また、近年の研究では月面の全域に水や炭素といった揮発性物質が存在することが示されていますが、研究グループは揮発性物質が小惑星シャワーによって月面にもたらされた可能性にも言及しています。
■破壊された小惑星の破片からリュウグウが形成された? 8億年前に破壊された小惑星の破片の一部は地球と月だけでなく他の惑星や太陽に落下したとみられるものの、別の破片からは「オイラリア族」というグループに属する小惑星が形成された可能性が高いと研究グループは指摘します。オイラリア族の名前の元になっている小惑星「オイラリア」は、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」がサンプルの採取を行った小惑星「リュウグウ」と同様に水や有機物が豊富なC型小惑星に分類されており、おなじくC型小惑星の「ポラナ」とともにリュウグウの母天体ではないかと考えられています。
これらの知見をもとに研究グループは、8億年前に破壊された小惑星の破片の一部は地球や月などに衝突したいっぽうで、別の破片からはオイラリア族の小惑星や、リュウグウのような地球接近小惑星が形成されることになったと考えています。はやぶさ2の再突入カプセルは今年の12月6日に地球へ帰還する予定ですが、リュウグウから採取されたサンプルを分析することで、地球や月に落下した小惑星シャワーとC型小惑星のつながりが明らかになることに研究グループは期待を寄せています。
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