2020年8月27日木曜日

集中治療後症候群<4>「退院後」 外来でサポート


 茨城県日立市の日立総合病院は昨年、退院後の患者を対象にした「PICS(集中治療後症候群)外来」を開設した。集中治療室(ICU)で治療後、心身の機能が長期間低下する同症候群は、社会復帰の妨げになることもある。「前と比べて、体力は落ちていますね。言葉もまだはっきりしないです」。今年7月半ば、くも膜下出血で救急搬送され、同病院のICUで治療後、2週間前に退院した男性(59)が切り出した。
 看護師が、チェックリストを用いて精神状態や認知機能の変化を調べ、理学療法士が握力など全身の筋力や、普段の運動量などを確認していく。1日2回の散歩に出かけ、退院時と比べて筋力は回復してきた。一時は10キロ減った体重も、食欲が出て回復傾向にある。
 救命救急センター長の中村謙介さんは「全快とはいきませんが、順調ですよ」と男性に伝えた。
 PICS外来は毎週木曜に開かれる。ICUで治療を受けた全患者を対象に、退院して2~3週間後に受診を求める。医師、看護師、理学療法士のチームが担当。毎回5人ほどを診る。生活が変わったり、介護が必要になったりする人もいる。家族に介護疲れが出ていないかにも気を配る。
 同病院が昨年7~12月、同外来を受診した48人を調べたところ、退院後に運動障害があった人は48%、筋肉量の減少が認められたのは50%に上った。また、うつ状態は10%、不眠を訴えた人は17%、記憶障害は27%の割合でみられた。
 中村さんは「これまで『病気じゃないから』と、見過ごされてきた悩みや訴えが多いことに気づいた」と言う。実際、脳や心臓など、元の病気の治療を担当した医師には相談できず、「退院後に不調が残る」と感じていても、諦めていた患者や家族は少なくない。
 PICS外来では、患者の心身の状態を評価し、自宅でできるリハビリの助言や、必要な場合は薬の処方や精神科医の紹介などを行う。同病院では職員向けの勉強会を開き、患者や家族にもパンフレットを渡すなどして、受診につなげようとしている。
 ただ、救急搬送を同市周辺の広い地域から受け入れているため、退院後に通院してくるのが難しい患者が多い。取り組み自体が始まったばかりのため、長期的にフォローしていく仕組みも十分に整っていない。
 欧米では、看護師が主体のPICS外来が増えているが、国内にはまだほとんどない。中村さんは「退院後の患者が地元の医療機関で診てもらえるようになるのが望ましい。PICSに関心を持つ医療従事者が増え、連携を深めることが必要になってくる」と話している。

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