増える会食 減る会見…政局迫る自民党
政治部デスク 川上修
ドイツの哲学者カントは、食事を1人で済ませることを極度に嫌った。ある日、食事相手がいなかった彼は、召し使いに館の前を通りがかった最初の1人を招くよう命じたほどだ。「リヨンの料理人 ポール・ボキューズ自伝」(晶文社)に、そう書いてある。
語らいながら楽しむ食事は人生を豊かにする。コロナ禍でそんな常識が通じなくなり、「大人数での会食」が悪者扱いされる今の風潮は、カントの有名な言葉を借りれば「コペルニクス的転回」と言えるかもしれない。
会食は、人と人との心理的距離を縮め、相手の本音を引き出す上でも有効だ。大方の政治家は、その効用をよく理解している。それが証拠に、かつては「料亭政治」という言葉があった。緊急事態宣言の発令中こそ自粛していたが、自民党の有力者たちは連日のように会食を重ねている。会食よりも自宅での読書を好む石破茂・元幹事長でさえ、最近は会食の機会を増やしているそうだ。
「ポスト安倍」を含む有力政治家がコロナ禍にめげず会食に精を出すのは、政局が迫っていることを肌で感じているためだ。政府のコロナ対応は国民の不評を買い、内閣支持率は下がり続けている。全国一斉休校や緊急事態宣言の全国拡大は、たしかに唐突な面があった。最近では「Go To トラベル」の東京除外が物議をかもした。振り回されたあげく、新型コロナの感染者数が高止まりして我慢の生活が続くとなれば、政府に不満をぶつけたくなる気持ちも分かる。
首相はきょう24日、連続在職日数が2799日に達し、佐藤栄作を抜いて歴代最長となった。政治記者のはしくれとしてはコロナ対応だけでなく、政権の来し方行く末について、じっくりと話を聞いてみたいところである。
カントが人生最後に漏らした言葉は、「これでよい」だと伝えられている。首相は、国民との距離が開きつつある現状をどう思っているのだろうか。自民党総裁任期は1年以上、残っている。「これでよい」と割り切るには、まだ早すぎる。
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