2020年8月24日月曜日

コロナ対応 台湾と日本の「違い」とは?© NNN コロナ対応 台湾と日本の「違い」とは? 日本を含む世界各地で新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を記録する中、累計の感染者数を500人未満に抑え、感染拡大の封じ込めに世界で最も成功していると評価の高い台湾。その成功の背景には何があり、日本が学ぶべきことは何なのか。現地の大学に招かれて今年2月から台湾に滞在し、政府の封じ込め対策を目の当たりにしてきた北森武彦・東京大学特任教授に聞いた。(前編から続く)
■専門家が行政トップも
Q:日本では専門家と政治家の溝や軋轢が指摘されているが?

台湾では感染対策を率いる行政のトップに歯科医師である陳時中・衛生福利部部長(保健大臣)を起用していることが大きな特徴だ。陳部長はSARSのときにも防疫の最前線で指揮を執っていた。アメリカのCDC(疾病対策センター)に当たる「中央感染症指揮センター」で総指揮を執る陳氏は、新型ウイルスの特徴や国内外の感染状況などを徹底的に調べあげ、把握した情報に基づいて適切な対策を素早く打ち出した。
感染対策を実行に移す行政のトップに専門家を据えることで、科学的な見地からの判断に政治的な思惑や圧力などが加わることなく、行政が必要な政策をいち早く実行することが可能となった。データから現状を把握して次を予測するのが専門家であり、行政が判断して意志決定する。行政トップに専門家を据え、「何か起こってから」状況を見て後手後手で施策を打ち出すのではなく、常に先手先手で施策を打ち出し「何も起こらないように」していた。SARSの経験は貴重だったに違いない。
■隣国から学ばなかった日本
Q:今の日本の状況をどう見る?
日本は初動対応を致命的に誤ったと言わざるを得ない。台湾のようなSRASの経験を持つ隣国の経験に基づいた対応をなぜ参考にしないのかと臍(ほぞ)を噛む思いだった。
ウイルスというものは少しずつ変異する。最初に蔓延したウイルスに対して、人間の側も抗体を持つことで少しずつ感染拡大は収まってくる。しかし、変異したウイルスが再び猛威を振るったり、環境の季節変動などによって感染第二波となる。いまの日本の状況は第二波というよりも、第一波が収まらないうちに感染対策を緩めたことで元に戻ってしまったと見える。その意味では、現在の日本の状況は人災とも言える。
そんな中、GoToトラベルキャンペーンを再考しないなどというのはとんでもないことだ。もし台湾がいまの日本の状況に直面したら、即座に人の移動を制限するはずだ。
台湾では3か月以上に渡って新規感染者ゼロが続いているため、徐々に人の移動制限を緩め、いまは完全に自由になった。国内の経済活動もほぼ元通りに戻った。ちなみに、マスク製造の指揮を執り、経済対策にも手腕を発揮した沈栄津経済部長(経済大臣)は、6月に副首相に相当する行政院副院長に昇任している。圧勝で再選した蔡総統の支持率はさらに上がった。
どこの国を見ても、科学者や専門家の考え方と政治との間にはギャップがあるが、最終的には政治が判断を下すことには変わりはない。そのギャップをいかにして埋めることができるのか。SARS対応の経験を持つ歯科医師と天才と言われるIT科学者が行政トップの担当大臣として実務のリーダーシップを発揮し、これまでのところ、国家として成功を収めている。たまたまではないだろう。再選直後の蔡総統の任命である。SARSを経験した隣国から学べたことも、これから学ぶべきことも多いはずだ。 

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