優勝は7アンダーのソフィア・ポポフ(ドイツ)。日本勢は7選手が出場し、上田桃子6位、野村敏京22位タイ、畑岡奈紗64位タイ。連覇が期待された渋野日向子、そして河本結、勝みなみ、稲見萌寧らは予選落ちした。
昨年、渋野日向子が制したウォーバーンGCは、イギリス・ロンドン近郊の林間コースだった。今年の舞台は、スコットランド南西部に位置するロイヤルトゥルーンGC。同じ全英女子といえども、全く異なるリンクスコースである。
リンクス特有の海風、どこに転がるか予想しづらい硬い地面、無数に存在する深いポットバンカー、ラフに生い茂った刺々しいゴース……今年はスコットランドらしい難コースだった。
「地元だから、リンクスが大好き」という'18年の全英覇者のジョージア・ホール(イングランド)が、リンクスの攻め方を試合前に語っていた。風の影響を最小限にとどめるには「ボールを強く打たないことが重要です」。強く打つとボールのスピン量が増えて、風に流されやすいからだ。
「なるべく低い弾道のボールを打つこと。クラブを短めに持ち、コンパクトに振ることも大事です」
だが予選ラウンドは、小さい時からリンクスに慣れ親しんできたホールでさえも苦戦する大荒れの天気となった。大会初日の最大風速18メートル。台風並みである。
大会側は悪天候を考慮して、距離を短くするためティーボックスを前方に移動したり、グリーンの芝を刈ることを控えた。
「もしグリーンを刈っていたら、(風で)ボールが動いて(試合が)一時中断したと思います」(ホール)
リンクスと荒れ狂う風に、選手は翻弄された。
上田「普通の番手より40~50ヤードぐらい落ちている」
大会初日を終えた上田は、コンディションの厳しさを教えてくれた。「自分1人だけだったらパニックになりそうなくらい難しかったので、(キャディを務めた辻村明志コーチ)の2人で1つぐらいのパワーだったと思います」
試合前は天気が良かったため、練習ラウンドは全く参考にならなかったという。
「普通の番手より40~50ヤードぐらい落ちているんですね。コースを知るより(自分のディスタンスを)把握することが難しかったです」
予選カットライン9オーバーは、'09年に並んで大会史上最も低かった('09年はパー72、今年はパー71)。
河本「これもゴルフなんだなという感じです」
ここまで厳しいリンクスに挑戦することとなった日本勢4選手も、結局予選落ちを喫した。2日目を終えて、各選手にとって望まぬ結果となったが、すぐ前を向いた。
「人生初っていうほどの難しさでした。(試合中にメンタルが)折れすぎて逆に真っ直ぐの気持ちです」(稲見)
「ゴルフの内容的には納得できない部分もありますが、こういう機会がないと回れないコース。またチャレンジしたいです」(勝)
「良いイメージのショットを打っても、それが大きくバウンスしていったり、アンラッキーの方に跳ねたり。アゴの近くに止まってペナルティを払わなくちゃいけなかったり、目玉になったり……。これもゴルフなんだなという感じです。一旦(自分のプレーを)整理しなきゃいけないなと思います」(河本)
渋野「何かを怖がっているのか……」
大会2連覇を目指した渋野は、カットラインに3打及ばなかった。渋野はコースや風よりも自分自身と戦っていた。
「何かを怖がっているのか、(アイアンを)最後まで振り切れないというか。ドライバーのように思いっきり振ればいいと分かっているんですけど、なかなかうまく振り切れないっていうことに、ここ数カ月間悩んでいます」
予選落ちしてからすぐのオンライン取材で渋野の表情は硬かったが、雪辱を誓った。
「うーん、リベンジしたいです。今日のスコアは自分の責任だと思っているので、しっかりもっと成長して、もっとショットに自信を持って、挑めるようにまた(全英女子に)帰ってきたいなと思いました」
ディフェンディングチャンピオンとして、今までに感じたことのない重圧を抱えながら、挑んだ1戦。この経験は今後の糧になる。
リンクスでは、経験がものをいう。
「『アジア人でもパワー関係なく戦える』って感じた」
全英女子3度目の挑戦で畑岡は初めて予選通過し、腰が良くなってきた野村は約3年ぶりにメジャー大会を4日間を戦った。上田は、10度目の出場で自己最高位となる6位入賞を果たした。
「全米オープンはハイボールでパワー系の選手が球を止めて、スコアを作るというイメージです。実際に自分がプレーしてもそう感じました。全英女子とは、色んな技術を使えば『アジア人でもパワー関係なく戦える』って感じた大会です」
海外メジャーを経験するのではなく、勝負出来る自信があるから挑んでいる。
リンクスでは、ゴルファーとしての技量が試される。
優勝者は米女子2部ツアーの選手!?
世界中から集まった144選手の頂点に立ったのは、27歳で世界ランク304位のソフィア・ポポフだった。アメリカで戦っている選手ではあるが、レギュラーツアーではなく、なんとシメトラツアー(米女子2部ツアー)でプレーしていたドイツ人である。ポポフはアマチュア時代に数々の大会で活躍したが、プロでは結果を残すことができずにいた。ポポフを筆者が初めて見かけたのは、'12年の世界アマチュアゴルフチーム選手権だった。優勝候補の一角のドイツチームのエースとして出場するも、思ったようなプレーができず、試合後に仲間に慰められながら涙を流していたのが印象的だった。
結局その後は、米ツアーとシメトラツアーを行き来するようになり、昨年は最終予選会で1打差で米ツアーのシード権を逃した。
「もう辞めようと思った。辞めなくてよかったですよ!」
体調面でも、キツい思いをした。'15年の米ツアー1年目にライム病にかかり、体重11kgを失った。当時は色んな症状が出ても、なかなか原因が分からず、3年間で20人以上の医者を巡って、やっと判明という不遇もあった。
新型コロナウイルスの影響で、多くのアジア・ヨーロッパ勢が欠場したため、8月上旬の「マラソン・クラシック」に出場の機会が巡ってきた。急だったため、他の選手と1台の手引きカートをシェアして利用し、そこで結果を出したことで、全英女子の切符を掴み取った。
彼氏がキャディを務めてリラックスさせてくれた。
リンクスに巡ってきた運を、ポポフは逃さなかった。雨が降っても、風が吹き荒れても、我慢強く、4日間安定したプレーを見せつけた。
メジャーの大舞台で、手引きカートではなく、ポポフの彼氏がキャディを務めたことも功を奏した。
試合中、ポポフの気持ちを知ってかどうか、彼氏はプレーの合間に「今の鳥を見た?」など色々話しかけてきたそうだ。次のショットをどうするか考えているポポフは思わず吹き出す。
「どうしたら鳥を見る余裕があるわけ(笑)」
ゴルフ以外のことを話すことでリラックスできたという。
終わってみれば、最終日に一度も首位を譲ることなく、後続に2打差の7アンダーで勝利した。
「このコンディションの中で、自分のベストプレーが出来たと思う」
今までのプロ生活の努力が報われて、優勝スピーチの合間に何度も涙を拭い、笑顔を見せた。
昨年の渋野と同様に、初優勝が初メジャー制覇となった。
リンクスという厳しい戦いの舞台で、新たなシンデレラストーリーがうまれた。
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