ふるさと納税の返礼のラインアップに「墓掃除」を盛り込む自治体が増えている。全国で数百の自治体が提供しているとみられ、地元のシルバー人材センターなどのメンバーが墓の掃除や供花、合掌まで代行してくれるというサービスだ。自治体が「墓守」を引き受ける背景には何があるのか。
令和元年度に受け入れたふるさと納税寄付額が過去最高を更新した埼玉県。その東部に位置する伊奈町は、平成29年から墓掃除の返礼を始めた。
必要な寄付額は1万4千円だ。地元のシルバー人材センターのスタッフが墓石や線香台の水洗い、草刈りなどをした上で、花を供えて手を合わせる。
始めた契機はさまざまだが、一定の「需要」に後押しされるケースが多いようだ。美里町の場合、地元のシルバー人材センターに県外の人から墓掃除の依頼が寄せられたことがきっかけになった。
少子高齢化などの影響で、墓の維持が困難な家庭が増えたことも遠因になっているという。
秩父市が運営する墓地「聖地公園」では、約1万4千基の墓のうち数十基が清掃されず荒れた状態になっている。あまりに荒れ果てた墓については、管理事務所が遺族に手入れを促しているが、求めに応じてもらえないケースもあるという。管理事務所の担当者は「遺族が高齢だと、なかなか管理も難しいのではないか」と推測する。
こうした事情に加え、寄付獲得競争が過熱する中、個性的な返礼を行うことで差別化を図りたいという自治体側の思惑もある。
埼玉県内のある自治体の担当者は「返礼品といえば肉や魚が人気。特産品がない中で工夫しなければならならず、墓掃除を始めた」と明かす。別の自治体の担当者は「例えば『家屋の草刈り』をメニューにする場合、各戸で広さに違いがあるため、必要な寄付額を設定しにくい。その点、お墓ならおおむねの寸法は決まっている」と話す。
とはいえ、墓掃除が返礼の人気メニューになっているとは言いがたい。埼玉県内の場合、年間約20件の利用がある秩父市のようなケースもみられる半面、申し込みがゼロという自治体も少なくない。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で長距離の移動を伴う帰省を控える動きも広がり、今年のお盆は「リモート墓参り」なども注目を集めている。墓掃除の返礼が「新しい生活様式」のスタンダードの一つとなる日が訪れるのかもしれない。(内田優作)
【用語解説】ふるさと納税 応援したい自治体に寄付すると、上限額を超えなければ自己負担の2千円を除いた額が住民税などから差し引かれる。都市部に偏る財源を地方に移す狙いで平成20年に始まった。高価な返礼品を呼び水とした自治体間の寄付獲得競争が過熱し、昨年6月に返礼品の基準を守る自治体だけが参加できる新制度に移行。大阪府泉佐野市など4市町が新制度から除外されたが、最高裁判決で泉佐野市の除外決定が取り消されたことを受け今年7月に復帰した。
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