2020年7月27日月曜日

       7月26日 編集手帳

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 戦前の関西で財をなした綿布商に、山本顧弥太こやたという人がいた。白樺派の作家、武者小路実篤らに依頼され、100年前の1920年、ゴッホの「ひまわり」を買ったパトロンでもある。南仏アルルで描かれた連作7点のひとつだ◆その山本は俳句をたしなんだ。1943年に句集をまとめている。その名も『向日葵ひまわり』。一読、こんな句が目をひいた。〈向日葵の花びらに立つ焔かな〉◆ホノオかホムラか、ともあれ炎の画家の情熱を重ねたのだろう。ただ、複雑な感慨を抱かせる。句集の2年後、愛蔵の絵は空襲で焼失してしまったという。ゴッホの生涯に似て、悲劇的な運命をたどったと言えようか◆とまあ、そんなことを調べたのは、連作の中でも特に見事な「ひまわり」を見たからである。東京・上野の国立西洋美術館の「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」に出品されている◆この展覧会もご多分にもれず、コロナ禍でひどく開幕が遅れた。それでも実物が世にあるのは得がたいことに違いない。マスク着用で対面した絵は大胆にも、黄色い花に黄色の背景。もやもやした気分を吹き飛ばす輝かしさだった。

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