2020年7月31日金曜日

写真はイメージです Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン 提供 写真はイメージです Photo:PIXTA 九州を中心に各地で大きな被害をもたらした「令和2年7月豪雨災害」の発生から約2週間がたった。この数年、毎年のように甚大な自然災害が起きる中、住宅選び、および購入後の事前対策でなすべきことは何か。事情に詳しい不動産コンサルティング会社、さくら事務所の長嶋修会長に話を聞いた。(聞き手・構成/ダイヤモンド編集部 松本裕樹)

温暖化で高まる
都市の災害リスク

今夏の九州豪雨、昨年の台風15号や19号、一昨年の西日本での豪雨など、ここ数年、全国のあちこちで自然災害、特に水害が増加している。
 温暖化が進み、海面温度が上昇すれば、台風が発生し、豪雨のもととなる大気が発生する。災害リスクは過去に比べて高まっている。今年も特に10月ぐらいまでは注意が必要

 住宅を購入する際には災害リスクを極力避けるべきであり、また、すでに災害リスクのあるエリアに住んでいる人は、事前・事後の準備をしっかり行う必要がある。
 最近は「50年に一度の大雨」と報じられることがしばしばある。「そのような想定外の大雨は滅多にないだろう」「これまでの大雨や台風と同様、今回も大丈夫だろう」と、自分にとって都合の悪い情報を無視または過小評価する正常性バイアスが働き、災害に巻き込まれてしまうケースもある。
 都市部だからといって安心はできない。
 都市化が進み、コンクリートと建物に囲まれる中で、もともとの土地がどういう使われ方をしていたのかがわからなくなってしまうケースは少なくない。
 昨年の台風19号で水害に襲われた武蔵小杉は顕著な事例だ。
 武蔵小杉の周辺は、もともとは多摩川が蛇行して流れていたエリア。多摩川の流れを真っすぐに整えたことで、武蔵小杉は工場が立ち並ぶエリアとなり、バブル崩壊以降のリストラの一環で工場が売却され、行政による容積率緩和もあり、タワマン群ができた。
 だが、タワマンに引っ越してきた人の大半は地元以外の住民であり、その土地の歴史や開発の経緯を知らない人が多い。自分が住んでいるマンションがかつての多摩川の上に立っていると知って購入した人は果たしてどれだけいただろうか。
 また、都心一等地であっても水害リスクはある。
 例えば麻布十番などはすり鉢状になっていて水害を被りやすい。
 そもそも、標高が30~50メートルぐらいある場所でも、周囲よりも相対的に標高が低ければ雨水の排水処理が追い付かず浸水する。
 都市の排水処理能力は一般的に、1時間当たり50~60ミリを目標にしている。言い換えると1時間当たり100ミリの雨が降ればお手上げになる。

災害増加で変わる
立地の定義

住宅の購入選びで大事なことは、「1にも2にも3にも立地」とはよく言われることである。とはいえ、ここでいう「立地の良さ」とは、都市部、都心部、駅近など、利便性が高いことを意味する。
 しかし今後は、地盤の強さ、浸水リスクの低さといった安全性も加わり、立地の定義が変わることになるだろう。
 浸水の可能性があるエリアは全国に少なくないため、「ハザードマップで浸水可能性があるエリアに住むな」というのは現実的ではない。
 重要なのは、浸水リスクがあることを知った上で、自分が納得できる住宅選びや購入後の対策をするべきということだ。
 詳しくは『災害に強い住宅選び』(日経BP)で触れたが、例えば一戸建て住宅を選ぶ際、地下や半地下に居室や駐車場がある住宅は、人為的に低地を作っている状態であり、浸水リスクが低いエリアでも水害になりやすい。さらに、こういう家は流れ込んだ水をポンプでくみ上げているが、ポンプの故障や停電があれば一気に浸水しかねない。
 また、豪雨の際に雨漏りしやすい建物かどうかも見分けるポイントがある。
 例えば屋根で外壁よりも外側に出っ張っている部分、いわゆる軒(のき)の有無だ。
 デザイン重視であえて軒をつけない家もあるが、特に都市部では土地が狭いこともあり、軒が出ていない建物が多い。
 しかし、軒がない家は横殴りの雨に弱く、雨漏りのリスクは高まる。
 すでに住んでいる家の場合、水害リスクに備えるための対策は数多い。
 中でも重要なことを一つ挙げるとすれば、建物の穴をふさぐということだ。
 住宅の外壁には、サッシ、エアコンのダクトなどを取り付けるため、あちこちに穴を開けている。穴を開けた後の隙間はゴム状のシーリング剤で埋めているが、これが劣化すると雨漏りの原因となる。
 シーリング剤の寿命は一般的には7~10年程度。15年とか20年も放置すれば、ほぼ間違いなく雨漏りする。長らく雨漏り状態を放置すると、カビが生えたり、白アリが入り、最終的に木が腐る可能性もある。それゆえ、時々、シーリング材に隙間やひび割れがないか確認し、あればすぐに交換すべきだ。
 日本は地震や風水害が多いにもかかわらず、住宅の安全性への消費者のリテラシーは低い。しかし、かつての日本人はこれほどリテラシーが低くはなかったと思う。
 そもそも戦前の持ち家率はすごく低くて、例えば東京では10%前後で、ほとんどが貸家だといわれる。また、人口が現在ほど多くないこともあり、災害リスクが高いエリアにはあまり家もなかった。
 ところが戦後の高度経済成長期、地方から農家の二男以降の子が都市部に出て仕事をするようになり、住宅が圧倒的に不足した。こうした中、行政は多少の災害リスクがある場所でも住宅建築を許可してきた。
 そして、最近の度重なる豪雨で被害に遭う住宅が増えるという形で、昔の亡霊が浮かび上がってきてしまった。これは行政の不作為による結果だといえるだろう。

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