2020年8月10日月曜日

編集手帳・よみうり寸評

8月10日 編集手帳


 食品産業に関する年表を見ていて気が付いた。国産初のインスタントコーヒーが登場してから、ちょうど60年になる◆森永製菓が1960年8月10日頃、発売した。日本が占領されていた時期に、進駐軍兵士が愛飲する品に着目して、準備を始めた。かつて軍需用にしょうゆの粉末化に取り組んだ経験も役立ったという◆舶来の飲料が一般家庭でもおなじみになったのは、インスタントのおかげだろう。小学生の記憶がよみがえる。冷たい牛乳に茶色の粉と砂糖を加えて、かき混ぜる。すてきな味がした。回想から現実に戻ると、食卓の周りにはインスタントとドリップ用の粉の両方がある。時間があるならば、後者に手が伸びる◆職場の自動販売機には多種多様な缶コーヒーが並ぶ。できる同僚が給湯室で豆をひいている。余裕の表れだろう。羨ましい。米国のジャーナリスト、マーク・ペンダーグラストが、この飲料の歴史を巡る本の序章で書いている。〈一杯のうまいコーヒーは、最悪の日を何とか耐えられるものにしてくれる〉◆心配なニュースが続くからこそ、飲みものを楽しむゆとりを忘れずにいたい。

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