まず老後の支えとなるのが「年金」。しかし、昨年度より0.2%増額されたとはいえ、今年の基礎年金支給額は満額でも1人あたり月約6万5000円と、あくまでも“支え”にしかならない。
「亡くなった夫の年金があれば…」と思うなら、請求すればいい。「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんが話す。
年金事務所からの通知は一切ない
「配偶者が亡くなったら忘れてはならないのが『未支給年金』の請求です。公的年金の受給者が亡くなると、死亡届の提出をもって、年金の支給は止まります。しかし、年金は2か月分がまとめて次の月に振り込まれるため、誰でも亡くなる前の1~3か月分は、まだ振り込まれていない『未支給年金』として受け取る権利がある。というのも、1日でも月をまたげば受給権が発生するため、たとえば、10月1日に亡くなると、10月に振り込まれる予定だった8月分+9月分と、12月に振り込まれる予定だった10月分が『未支給年金』となります。これをもらい忘れるケースが非常に多いのです」
葬儀社などが「未支給年金を請求した方がいい」と教えてくれることもあるが、年金事務所からの通知は一切ないうえ、年金支払い日の翌月から5年経つと、請求できなくなる。
「請求できるのは、配偶者、子供、父母、祖父母、曾祖父母、孫、兄弟姉妹など、“亡くなった人と最も近しい3親等以内の親族”。血縁者や相続人である必要はなく、内縁の妻でも受け取れます」(北村さん・以下同)
亡くなった夫が自営業だった場合は、要件を満たせば「遺族基礎年金」が妻の年金に加算されるが、これは原則18才未満の子供がいる妻だけが対象だ。ただし、子供がいなくても妻が受け取れる「寡婦年金」を忘れてはいけない。
第1号被保険者として10年以上国民年金保険料を納めていた夫が基礎年金を受け取らずに亡くなった場合が対象だ。婚姻10年以上かつ夫に生計を維持されていた妻が60~65才までの間、夫が受け取るはずだった年金の4分の3が支給される。
「もしくは、12万~32万円までの『死亡一時金』を受け取ることもできます。最大で5年間支給される寡婦年金の方が、死亡一時金より金額が多いので、“すぐにまとまったお金が必要”というわけでなければ、寡婦年金を選ぶ方が賢明です。
若くして夫を亡くし、まだ受給開始年齢に達していなくても、必要書類を年金事務所に提出しておけば、60才になってから寡婦年金を受給できる“予約”も可能です」
離婚した夫の年金も一部請求できる
離婚した場合も、夫の年金を一部請求することができる。婚姻期間中に積み立てた夫婦の年金は“2人で築いた財産”。夫婦2人の年金額を分割して受け取ることができる。「請求できるのは“夫の年金の半分”ではなく、“2人の合計額の半分”なので、勘違いしないようにしてください。たとえば、夫の厚生年金が200万円、妻の厚生年金が30万円とすると、夫の全受給額の半分=100万円が受け取れるわけではない。夫が独身時代に50万円の厚生年金を積み立てていたとすると、それを差し引いた150万円が婚姻中の分。
これに結婚後に妻が働いて積み立てた30万円を合わせた180万円分が“2人の財産”なので、最大でもその半分=90万円ずつになります。たとえ夫の不貞で離婚した場合でも、分割の割合は変わりません。また、国民年金は分割の対象になりません」
別れた夫の年金がいくら受け取れるかは、年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると通知が来る。もし、自分の分だけを受け取るより額が多くなるなど、金額に納得がいけば、離婚成立から2年以内に振り込みの請求をする。情報提供請求書の提出は1人でもできるので、別れる前にこっそり確認しておくのもいいかもしれない。
夫の死後や離婚後に、申請すればもらえる年金とそのもらい方を、以下にまとめる。
●未支給年金
【概要】
公的年金は2か月分をまとめて次の月に支払われるため、受給中に亡くなると必ず発生する。配偶者、子供、父母、孫、祖父母、曾祖父母など、「亡くなった人と最も近しい3親等以内の親族」なら請求でき、内縁の妻でも受け取れる。
【もらう方法】
年金事務所に死亡届を出すときに、同時に請求できる。(年金支払い日の翌月から5年以内)
●寡婦年金または死亡一時金
【概要】
国民年金加入者の妻は、60~65才までは、夫が受給するはずだった基礎年金の4分の3を「寡婦年金」として、最長5年間受け取ることができる。または、12万~32万円までの「死亡一時金」がある。
【もらう方法】
市区町村の年金窓口に請求する。
●離婚時年金分割
【概要】
婚姻期間中の夫婦2人の厚生年金の合計額は“2人の共有財産”と見なされるため、離婚時に最大でその2分の1まで請求できる。「夫の厚生年金の半分」ではなく、「結婚している間の夫婦2人分の厚生年金の半分」なので注意。
【もらう方法】
年金事務所に分割後の金額がいくらになるかの「情報通知書」を請求後、納得すれば年金分割の請求手続きをする。
※女性セブン2020年9月10日号
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