2020年8月7日金曜日

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あの頃と今<4>写真カラー化 記憶呼び覚ます…AI活用 世代超え語り合う機会に

庭田さんらがカラー化した写真の一つ(片山●さん提供)。大正末期に広島市の中島地区で家族が夕涼みし、川の対岸には現在の原爆ドームが見える(●は昇の異体字)
庭田さんらがカラー化した写真の一つ(片山●さん提供)。大正末期に広島市の中島地区で家族が夕涼みし、川の対岸には現在の原爆ドームが見える(●は昇の異体字)
庭田さんらがカラー化した写真の一つの元の写真(片山さん提供)。大正末期に広島市の中島地区で家族が夕涼みし、川の対岸には現在の原爆ドームが見える
庭田さんらがカラー化した写真の一つの元の写真(片山さん提供)。大正末期に広島市の中島地区で家族が夕涼みし、川の対岸には現在の原爆ドームが見える
1945年8月1日夜から2日未明、原爆をのぞき地方都市としては最大級の被害が出た富山大空襲
1945年8月1日夜から2日未明、原爆をのぞき地方都市としては最大級の被害が出た富山大空襲
1945年8月1日夜から2日未明、原爆をのぞき地方都市としては最大級の被害が出た富山大空襲
1945年8月1日夜から2日未明、原爆をのぞき地方都市としては最大級の被害が出た富山大空襲

 戦後75年たって、戦争体験者の記憶も薄れつつある。古い写真と最新のテクノロジーを活用し記憶を呼び覚ます「記憶の解凍」というプロジェクトが進められている。

庭田杏珠さん
庭田杏珠さん

 東京大学に通う庭田杏珠にわたあんじゅさん(18)は、広島市の高校1年生のとき、原爆被爆者の証言を収録する学校活動に参加した。爆心地に近い平和記念公園は、かつて約4400人が暮らした繁華街だった。この場所に住み原爆で家族全員を失った男性と出会い、家族が写ったモノクロの写真を大切にしていることを知った。

渡邉英徳・東京大学教授
「写真をカラー化できたら、家族を近くに感じてもらえるのでは」。そう思い立ったのは、直後に高校で行われた渡邉英徳わたなべひでのり・東京大教授(45)(当時は首都大准教授)の「デジタルアーカイブ」の講習会に参加したからだ。

 情報デザインが専門の渡邉教授はインターネットやSNSなど新しいデジタル技術に着目。戦争の証言や写真を幅広い人たちに伝えるデジタルアーカイブを広島、長崎、沖縄などで地元の人たちと制作してきた。ただ、「アーカイブ上で、戦争当時の貴重な写真があまり見られていないことに気づいた。『白黒』なのが理由ではと推測した」と振り返る。

 大量の写真を読み込ませ学習したAI(人工知能)を活用することで、白黒写真の空や海、顔などを着色し、カラー写真として撮られたように見せることが、2010年代から簡単にできるようになっていた。

 実際に、AIで着色したモノクロ写真をツイッターに投稿していくと、約2年半で1億回表示(インプレッション)されるなど反響は大きかった。「カラー化によって、遠い昔の出来事が現在の日常と地続きになり、多くの人が戦争を自分に関係があることとして感じられるようになった」と渡邉教授は言う。

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 庭田さんは渡邉教授に技術を教わり、広島の被爆者に証言を聞く活動の中で、彼らが保管しているモノクロ写真をカラー化し贈るようになった。教授と2人で行う「記憶の解凍」のスタートだ。

 成果は予想以上だった。70年以上前の幼い自分が写るカラー写真を見た人たちは喜び、記憶を次々によみがえらせた。認知症が進み、会話が難しいとされた人が、カラー写真を前に原爆で亡くした家族との思い出を生き生きと話し、白く着色された花を「この花は(黄色の)タンポポ」と間違いを指摘したりもした。

 「最初、原爆で家族を失った悲しみを語っていたお年寄りが、カラー写真を見た後、家族との楽しかった思い出をどんどん話すようになったのが印象的だった」と庭田さん。渡邉教授は、「カラー化が対話のきっかけを創り出した。カラー化した写真が『本当の色』かは分からないが、世代を超えて戦争について語り考える機会が多く生まれてくれれば」と期待する。

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 「記憶の解凍」の対象は広島以外にも広がり、2人は太平洋戦争当時の日本各地や海外の戦場などの写真のカラー化にも取り組んだ。今年7月に刊行した『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)には355枚を収録する。

 この本は最近、庭田さん自身にも新たな対話を生んだ。本を渡した広島県出身の祖父が5歳のころの体験を話し出した。

 「最初『ぴかっ』と光った後、しばらくして『ドーン』という音がして、山に隠れて上の部分しか見えなかったけれど、暗い色のキノコ雲があがるのを見た」

 庭田さんは驚いた。「祖父から原爆の経験を聞くのは、実は初めてだったんです」(文化部 岡本公樹)

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