「当院では現在、熱中症で40~90代の5人が入院していて、これは昨年より多い。今年は急にバタンと倒れて搬送されるケースが目立ちます」
東京曳舟病院(東京都墨田区)で救急医療を専門とする三浦邦久副院長は、状況をこう説明する。巣ごもり熱中症の原因として考えられるのは「体が暑さに慣れていないこと」だという。
「いつもなら、徐々に気温が上がる4~6月に外へ出ることで体が少しずつ暑さに慣れていきます。このことを専門的には“暑熱順化”といいますが、具体的には皮膚の血流が増えて、汗をかきやすい体ができあがるのです」
汗は、体温を調整する大事な機能の一つで、皮膚から蒸発する際に体にこもった熱も奪い去り、体温を下げてくれる。
日本生気象学会によると、暑熱順化のためには、夏本番を控えた5~6月の暑い日に、ややキツいと感じる運動を1日30分間、1~4週間ぐらいするとよいという。三浦副院長も「日ごろからウォーキングなどをして、汗をかく習慣が身についていれば、多少の暑さには備えられる」。
だが今年は事情が違う。新型コロナで外出を控えて暑熱順化ができなかった人が多いとみられる。このため、夏の暑さが身に直接こたえ、熱中症を発症するおそれがある。ずっと家にこもっていた人が外出した際、熱中症が急に重症化するケースが危惧されるという。
もう一つ、巣ごもり熱中症の原因として「運動不足」を挙げるのが、在宅医療の専門医、たかせクリニック(東京都大田区)の高瀬義昌理事長だ。熱中症につながる“かくれ脱水”の名付け親でもある。
「運動不足と熱中症は一見、関係なさそうに見えますが、実は深いつながりがあります。体内でおおかたの水分とミネラルを貯蔵している場所は、筋肉です。とくに大事なのは、太ももにある大腿四頭筋。ここが運動不足で痩せ細ってしまうと、水分やミネラルをためておけなくなるので、脱水しやすいのです」
運動の機会が減り、筋肉が落ちていたとしたら、これもまた熱中症の要因になるというのだ。
巣ごもりとは直接は関係がないものの、マスク着用にも注意が必要だと、三浦副院長は強調する。
「水分を取るためには、いちいちマスクを外さなければならないうえ、マスクで呼吸がこもるので、のどや口があまり乾かない。こうした理由で、水分摂取のタイミングが遅れてしまうことが考えられます」
厚生労働省も「屋外で人と十分な距離(少なくとも2メートル以上)が確保できる場合には、マスクを外すように」と呼びかけている。
では、巣ごもり熱中症を防ぐにはどうするか。
熱中症対策に詳しい中京大学スポーツ科学部の松本孝朗教授は「コロナ禍においても、例年どおりの予防策をしっかりと」と話す。松本教授らがまとめた冊子「日常生活における熱中症予防」(日本生気象学会)などを参考にしたい。同学会のホームページ(※1)からダウンロードできる。
そのうえで、本誌が紹介したい対策は次の五つだ。
(1)プラス2分手洗い
感染対策として有効だとされる手洗いの際に、すすぎを「2分」多めに(手首までしっかりと)する。実はこれ、感染症と熱中症の“W対策”にもなると、三浦副院長は勧めている。
「手のひらはラジエーター(熱を放熱する装置)のような機能があるため、体にこもった熱を冷ますには、手のひらを冷やすのが最適。暑い日は1時間に1回程度、このような手洗いをするといいと思います」
(2)ペットボトル予防法
外出時に冷えたペットボトルを手で持って歩くというもので、(1)のラジエーター機能を利用した対策だ。持ち歩いたペットボトルの水は、のどが渇いたときに飲む。冷却と脱水予防の一石二鳥となる対策だ。
(3)こまめなスクワット
水分やミネラルを貯蔵しておく、太ももの筋肉を鍛える。気づいたときに10回ずつスクワットを。
(4)具だくさんみそ汁
体調を整えておくことは、まさに熱中症予防となる。そのためにもしっかりと朝食をとろう。暑くなると、どうしても火を使った料理を避けたくなるが、具だくさんのみそ汁なら、冷蔵庫にある余りものの野菜を切って入れるだけなのでカンタン。しかも、体に必要な塩分や糖分、ビタミン、ミネラルを豊富にとりやすい。
ちなみに、熱中症予防のための水分摂取について、前出の高瀬理事長はこうアドバイスする。
「食事がしっかりとれていれば、水や麦茶で十分。水分がとれていないときのコーヒーや緑茶は、カフェインが入っていて利尿作用があるのでお勧めできません。夏バテなども加わって食欲がなく、食が細いときは経口補水液を。成分が体に吸収しやすいバランスで含まれているので、飲む際は氷や水で薄めないで」
(5)部屋の温度は28度
松本教授は、部屋の温度設定の誤解をただす。
「エアコンの設定温度を28度にしても、人がいるところではそれより高くなります。ですので、部屋に温度計を置いて、室温が28度になるようにエアコンを調整してください。とくに高齢者のためには、数字がわかるよう、大きめの温度計にするといいと思います」
窓からの直射日光を避けるため、遮光カーテンなどを使うことも大切だ。
コロナ禍で気になるのが換気だが、「一人暮らし、あるいは夫婦2人暮らしで、コロナを外からもらってくるリスクが低ければ、必要ありません」(松本教授)。
むしろ気にしたいのは湿度で、50~60%に調整を。エアコンの除湿機能が苦手な人には、凍らせたペットボトル2本を扇風機の前に置くという方法(上の写真)がある。ペットボトルの表面に部屋の水分が付着して水滴になることで、除湿効果が期待できる。
日本気象協会は、今年の夏は厳しい暑さの日が多いと予想する。松本教授は改めて言う。
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