2020年7月28日火曜日

ALS嘱託殺人 医療からの逸脱は許されない


 患者がより良く生きることを支えるのが医師本来の務めではないか。安易に死期を早めただけなら、医療を逸脱する行為であり、許されない。
 女性と医師の1人はSNSを通じて知り合ったという。女性は安楽死を望む投稿を重ね、医師も容認する持論を展開していた。やり取りは1年近くに及んだが、面識はなかったとみられている。
 医師は主治医ではなく、治療も担当していなかった。SNS上のやり取りだけで「死にたい」と漏らす女性の心情を本当に理解できていたのか。府警には事件の経緯を詳細に解明してもらいたい。
 医師側には女性から130万円が振り込まれていたという。薬物投与のリスクを負う対価だったとしたら、医師側は違法性を承知のうえで短絡的な行為に及んだことになろう。疑問は拭えない。
 薬物投与などで患者の死期を早める行為は「積極的安楽死」と呼ばれ、日本では認められていない。ただ、例外的に許容されるケースとして、東海大病院の医師を殺人罪で有罪とした横浜地裁判決が一定の要件を示している。
 「耐え難い肉体的苦痛がある」「死が避けられず死期が迫っている」「肉体的苦痛を除去・緩和する他の方法がない」「患者の意思が明らか」の4点である。
 府警は、女性に死期が迫っていないことなどから、要件を満たしていないと判断したのだろう。
 オランダやベルギーなどは安楽死を合法化しているが、4要件と同様の条件を設けている。死の選択に熟慮が必要なのは当然だ。
 事件前、「コナンや金田一どころではない計画が必要」などと軽い表現の書き込みをしていた医師に、その熟慮はあったのか。
 ALSなど難病で苦しみながら生きる人たちは多い。患者からは「私たちの生を否定しないでほしい」との声も出ている。
 ALSは過酷な病だ。進行すれば、会話や食事、呼吸まで困難になる。根本的な治療法も確立されておらず、患者の苦しみは想像するに余りある。
 女性は生前、「指一本動かせない自分がみじめでたまらない」と書き込んでいた。患者を孤立させない環境整備などは必要だが、今回の医師たちのようなやり方では問題の解決にはつながるまい。

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