2020年8月28日金曜日

集中治療後症候群<5>家族へのケア 不可欠


名古屋市大医学部卒。2008年から藤田保健衛生大(現藤田医大)麻酔・侵襲制御医学教授。国内外の敗血症治療指針の作成などに携わる
名古屋市大医学部卒。2008年から藤田保健衛生大(現藤田医大)麻酔・侵襲制御医学教授。国内外の敗血症治療指針の作成などに携わる

Q&A 日本集中治療医学会理事長…西田修さん集中治療後症候群について、日本集中治療医学会理事長で藤田医大教授の西田修さんに聞いた。

 ――集中治療後症候群はどういう病気ですか。
 「集中治療室(ICU)で治療を受け、退院した人の多くは、長期にわたって身体的、精神的な問題を抱えています。この10年ほどで分かってきたことです。筋力低下やうつ状態、記憶障害といった多様な症状が特徴です」
 「中には、社会復帰が難しく、要介護状態になる人もいます。医療が高度化して救える命が増えた分、退院後の生活の質を考慮した集中治療が求められるようになってきました」
 ――原因は何ですか。
 「人の体は外傷や病気などで強いダメージを受けた時、身体の一部を犠牲にしてまでも生命を維持しようとします。集中治療を受ける人も同じで、筋肉を分解して、たんぱく質をエネルギー源に使おうとするため、筋肉量が著しく減ってしまいます。治療によるストレス、ICUの特殊な環境による睡眠障害も影響すると考えられています」
 ――予防法や対策は?
 「まず痛みや息苦しさなど、体の負担を減らすことが大切です。病気やけが、鎮静薬の影響で意識がない状態でも、苦痛を適切に評価して取り除き、全身の状態を安定させるようにします。栄養補給も重要で、点滴よりも鼻から腸管にくだを通して栄養剤を入れる『経腸栄養』が効果的です」
 「筋肉量の維持や、せん妄を防ぐための早期リハビリテーションも積極的に行われています。どれか一つで効果があるというより、総合的な取り組みが大切だと考えています。ICUから一般病棟に移った後や退院後も、患者の状態を把握し、適切な支援をしていくことが求められます」
 ――家族の負担は?
 「家族も強いストレスで不安や不眠状態に陥りがちで、『家族の集中治療後症候群』とみなされることがあります。患者が危篤状態の場合、延命治療をどうするかの判断に直面するかもしれません。退院後、うつやパニック障害といった精神的な問題を抱える家族は少なくありません。家族の支援も、集中治療に携わる医療従事者の役割です」
 ――新型コロナウイルス感染症の患者への影響は?
 「重症化すれば入院が1か月を超えることもあり、集中治療後症候群になる恐れが出てきます。これにコロナの後遺症が加わると、心身の健康は長期間、大きく害される可能性があります。実態を把握する国際的な調査が進んでいます」
 「病院では現在、感染予防対策や個人防護服の不足によって、リハビリ職員が患者に近づけなかったり、家族の面会が制限されたりしています。様々な制約がある中でも、回復後を見据えた診療が大切です」
 (影本菜穂子)

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