「天井まで水。もうだめかも」…熊本の妹、濁流の中で兵庫の姉へ最後の電話
4日午前7時54分。ちょうど1か月前、つぼみさんと最後の会話を交わしたのと同じ時間に、水口さんはつぼみさんの携帯電話にかけ、伝言を残した。
「何にもしてあげられなくて、ごめんね」
つながらないと分かっていても、かけてしまう。そんな1か月を水口さんは過ごしてきた。
つぼみさんは5人きょうだいの末っ子。幼い頃、自転車との事故で歩くのが不自由になった。我慢強く物静かで、きょうだいの中でひとり実家に残り、歯科衛生士となった。
十数年前に両親が他界した後は、球磨川沿いのJR坂本駅前にある商店を引き継いだ。駄菓子を買い求める子どもたちの憩いの場。熊本県益城町の兄、塩崎忠夫さん(81)が「もうけがない」と何度閉店を勧めても、「お金じゃない。誰かが来てくれるからさみしくない」と笑っていた。
豪雨に見舞われた7月4日の早朝、1人で暮らすつぼみさんから忠夫さんや水口さんに電話があった。「タンスが倒れて、挟まれて逃げられん」「水があふれてきた」。忠夫さんは避難するよう繰り返し勧めた。
水口さんも近隣の消防署や警察などに自ら電話をして助けを求めた。「屋根の上に避難して待っていて」と繰り返され、「妹は足が不自由。それができるなら、助けは求めない」と声を荒らげた。だが、町全体が浸水している状況で、どうにもならなかった。
午前7時54分、水口さんはつぼみさんに電話をかけた。「天井まで水が来て息ができない。もうだめかも」。いつもと変わらない、妹の落ち着いた声。急いで切り、再び救助を求める電話をしたが、次につぼみさんの携帯電話にかけた時にはつながらなくなっていた。
数日後、つぼみさんは居間で発見された。背負っていたリュックサックには、かわいがっていた親戚の子どもたちの写真が入っていた。布にくるまれた両親の位牌 も遺体のそばにあった。
水口さんは今も、つぼみさんの写真を見るたびに涙があふれる。「まだ店に、にっこりとほほ笑む妹がいる気がしてならないんです」と声を詰まらせた。
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