国交省が発表する「公示地価」によると、東京・銀座の坪単価は平均9301万8782円。バブル期には一坪あたり3億5000万円を超えた土地もあったと言われる。
しかし、その地価の高さは、ひとたび売り上げや業績が低迷すれば経営が立ち行かなくなることを意味する。実はコロナ禍において、銀座の有名店舗の“主”が続々と入れ替わっているのだ。
象徴的な売買劇が起きたのが「ティファニー銀座本店ビル」だ。
1996年のオープン以降、数々の高級ブランド店が立ち並ぶ銀座2丁目において一際存在感を放ってきた同ビルを、個人資産として所有していた孫正義・ソフトバンクグループ会長が、不動産大手・ヒューリックに売却。売買金額は300億円超と報じられている。
7月17日には、三陽商会が銀座8丁目の旗艦ビル「GINZA TIMELESS 8」を売却、8月末で営業を終了すると発表した。
三陽商会はかつて、イギリスのアパレルブランド・バーバリーとライセンス契約を結び、銀座にも店舗を構えていた。しかし2015年にその契約が終了し、大きな屋台骨を失った。その苦境に、再びコロナが追い討ちをかけた格好だ。不動産ジャーナリスト・榊淳司氏が語る。
「銀座の表通りに建つビルが売却されるのは、例年だと年に1例あるかないかだと記憶しています。ここまで短期間に有名ビルが手放されるのは異例で、大きな変動期を迎えているといえる」
100年以上の歴史を誇る「山野楽器銀座本店」は、4月から地下1階から2階までの3フロアをKDDIに貸し出すことを3月末に発表した。
1915年から銀座に店舗を構え、昭和初期から国内外のレコード・楽器を扱ってきた同店は、公示地価が日本一高いビルとしても知られる(坪単価は1億9074万円)。CD・DVDを販売していたメインの3フロアを賃貸せざるを得ないほど、コロナ禍の影響が大きかったのか──そう同社広報室に尋ねるとこう回答した。
「当社ではコロナとは無関係に、昨夏に賃貸を行なうことを決定しました。近年の音楽ソフト市場の縮小などの環境変化に対応しつつ、本店の不動産価値をより活かし、収益力を強化する方法を検討した結果の判断です」
前出の不動産ジャーナリスト・榊氏は銀座の店舗の現状にこう警鐘を鳴らす。
「これまでに閉店・倒産した店舗には、コロナ以前から業績が厳しかったところも少なくない。しかし第2波、第3波となれば、コロナがなければ経営が順調だった店舗にも悪影響が及ぶ可能性があります」
圧倒的なブランド力で跳ね上がってきた銀座の地価は、感染拡大で“巨大な不良債権”となる危うさを孕んでいる。
※週刊ポスト2020年8月14・21日号
0 件のコメント:
コメントを投稿