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医者になってからしばらく、私はマスクをせずに診察することが多かったように思います。今から考えると感染症対策として問題がありますが、当時意識していたのは「医者として患者さんに冷たく映らないように」です。お話をするときにこちらの口元が見えるのと見えないのとではだいぶ印象が違います。マスクで口を隠すとどうしても表情が伝わりづらく、患者さんにとっては「怖い」という印象を与えかねません。
現代の手術用マスクは、主に外科医を中心とした医療従事者向けに設計されており、手術現場において医者の呼気からの病原体を防ぐために使用されています。議論の余地を残す問題ではありますが、マスクは人から人への呼吸器系のウイルス感染を防ぐと考えられています。
新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療従事者だけでなく一般の人も日常からマスクをすることが増えました。私たち医者でもマスク着用の時間が長くなると、皮膚がかゆくなったりニキビが悪化したりします。
私の場合はマスクをした部分に吹き出物ができやすいのでけっこうつらいです。
マスクの着用が増えたことによって一般の人がどれだけ困っているか、きちんとした研究はこれまでありませんでした。最近になってやっと海外の報告が出ています。
(Acta Derm Venereol. 2020 May 28;100(10):adv00152. doi: 10.2340/00015555-3536.)
2315人を対象とした海外の調査ではマスク着用の約20%の人がかゆみを感じているとの報告でした。
とくにアトピー性皮膚炎の患者さんやニキビがある人は、マスクによって症状が悪化しています。マスクの着用時間が長ければ長いほどかゆみを感じることが多く、かゆみを感じる人のうち約3割がマスクを外して顔をかいています。こうしたことから、新型コロナウイルス感染症を予防するという観点からは「マスクによるかゆみ」は防ぎたい症状です。
では、マスクによる皮膚のトラブルはどうしたらいいでしょうか?
先の研究で興味深いのは、マスクによってかゆみを感じていながらも対策をとっている人が3割程度しかいないということです。かゆくても我慢すればいいと思っているのか、我慢できる範囲のかゆみなのか論文からは不明ですが、多くの人は対策なしで過ごしています。
マスクによるかゆみの原因ですが、主に以下の三つがあげられます。
マスクによる圧(摩擦)、化粧や日焼け止めに含まれる成分、そして汗です。
まず、マスクのひもがあたる耳は耳切れを起こす人が多くいらっしゃいます。これには、なるべく圧がかかりづらいタイプのマスクに変えるか、マスク着用の時間を減らすのがよいと思います。
時々、自宅から参加のWEB会議でもマスク着用の人を見かけますが、いつどのような状況でマスクが必要かしっかりと理解して着用するのがよいでしょう。個人的には、壁際のパソコンに向かって黙って仕事をしている状況でマスクが必要だとは思いません。
次に、マスクで長時間口元が覆われるために普段使っている化粧品や日焼け止めもかぶれやすくなる可能性に注意したほうがよいでしょう。私はネズミを使ったかぶれの研究もしていますが、かぶれをより起こしやすくするために薬を皮膚に塗った後にテープでふたをします。人間の場合でも、塗った薬がとれないように、またしっかりと皮膚に薬が染み込むようにガーゼで覆う治療方法があります。
化粧品や日焼け止めに含まれる成分でかぶれやすいものは、マスクで覆うことによって皮膚炎を起こすリスクがあります。マスクの下の化粧を軽めにしたり(場合によってはやめたり)、保湿剤だけを塗るのがよいでしょう。さらに、日焼け止めクリームがついてしまったマスクをそのまま何日も続けて着用するのは問題です。新しいものに変えるか洗濯をするなどして、マスクからかぶれのもととなる成分を取り除くことが重要です。
マスクの下に汗をかくことでかゆみがでる人もいます。なるべく汗を洗い流し拭きとってください。
かゆみを和らげるために水ですすぐ行為は、汗を落とすだけでなく皮膚の温度を下げる意味でも効果的です。また水ですすぐことで皮膚を清潔に保ちニキビ予防にも役立つと考えられます。
新型コロナウイルス感染症との戦いは長期化することが考えられます。マスク着用に伴う皮膚のトラブルは夏の今の時期が一番起きやすくつらいものです。しっかりと対策を立ててこの夏を乗り切ることが大事です。
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