2020年7月25日土曜日

オリンパスはカメラ事業から事実上撤退した。写真は新宿のビックロのカメラ売り場(記者撮影)© 東洋経済オンライン オリンパスはカメラ事業から事実上撤退した。写真は新宿のビックロのカメラ売り場(記者撮影)  この6月、カメラ業界を揺るがすビッグニュースが相次いだ。
 オリンパスは6月24日、デジタルカメラを中心とする映像事業を分社化して、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)に売却すると発表した。9月末までに最終契約を結び、年内に売却を完了する予定だ。
 売却額は未定で、「オリンパス」ブランドは当面維持するという。1936年以来、創業期のオリンパスを支えたカメラ事業から撤退する。

カメラ撤退のタイミングを模索

オリンパスはフルサイズより小さい画像センサーを使った小型・軽量で扱いやすいカメラを得意としている。中でも「PEN」(ペン)シリーズは、テレビCMに女優の宮﨑あおいさんを起用して女性ファンも増やすなど高い人気を誇ってきた。その技術は医療用の内視鏡や顕微鏡などの研究開発にも生かされている。
 しかし、デジカメ市場はスマートフォンの普及に伴って急激に縮小。デジカメが主力の映像事業は近年、2017年3月期を除いて営業赤字続きだった。世界シェアは4%程度にとどまり、工場閉鎖などの構造改革を続けても黒字化できなかった。
 2019年11月の東洋経済の取材に対して竹内康雄社長は、カメラを含む映像事業を念頭に「あらゆる事業で絶対に撤退しないという考えはない」と発言。売上高の8割を占め、80%の営業利益率を誇る主力の医療機器事業に注力する方針を示し、カメラ事業撤退のタイミングを模索していた。
 「映像事業の技術が主力の内視鏡技術に生かせる」(笹宏行前社長)など、社内ではカメラ撤退に反対する声も少なくなかった。中国深圳市の工場を閉鎖し、ベトナム工場に集約するなど生産拠点を再編。低価格帯の小型デジカメ事業を縮小する一方で、収益性の高いレンズ交換式カメラやハイアマチュア向けの拡販強化を進めて生き残り策を模索していたが、極めて難しい市場環境に抗えなかった。
 実際、デジカメ市場は縮小の一途をたどっている。カメラ映像機器工業会によると、2019年の世界総出荷台数は1521万台。ピークだった2010年(1億2146万台)の8分の1に縮小している。
 そこに襲いかかったのが新型コロナウイルスだ。外出規制やイベントの中止によってカメラ市場は一段と冷え込んでいる。カメラ映像機器工業会によると、5月の世界総出荷台数は前年同月比72.6%減の約37万台と大きく落ち込んだ。1〜5月の累計では前年同期比50.4%減とかつてないほど悪化している。

雑誌『アサヒカメラ』も休刊に

折しも、オリンパスがカメラ事業撤退を発表する3週間前には94年の歴史がある朝日新聞出版の総合カメラ雑誌「アサヒカメラ」も広告収入の減少を理由に2020年7月号をもって休刊することを決定。オリンパスとアサヒカメラの撤退は秒読みとされていたが、業界関係者やファンに衝撃を与えている。
 かつて日本のお家芸だったデジカメ業界はオリンパスに限らず苦境に陥っている。2017年にはリコーがカメラ機種を縮小し、カシオ計算機も2018年にコンパクトデジタルカメラからの撤退を決めた。中堅メーカーを中心にリストラのドミノ倒しが始まっている。
 大手メーカーも安泰ではない。特に厳しいのが一眼レフカメラでキヤノンと双璧をなしてきた名門ニコンだ。ニコンは2020年3月期連結決算でデジカメを中心とした映像事業が171億円の営業赤字に初めて転落。好採算の一眼レフや交換レンズの販売が振るわないのが原因だ。
 ニコンは2019年から2020年にかけて、タイヤやラオスなどの生産拠点で大規模な人員削減を実施してきたが、2021年3月期も新型コロナの影響を受けて「2期連続の赤字を覚悟せざるをえない」(德成旨亮CFO)としている。
 ニコンが厳しいのは市場環境のせいだけではない。縮小するカメラ市場の中でも人気が比較的高かったミラーレスカメラでの出遅れが響いている。小型軽量で高画質の写真が撮れるミラーレスは一眼レフカメラの需要を浸食し続け、2018年には国内出荷台数でついに一眼レフを逆転した。
 一眼レフとの食い合いを恐れていたニコンが重い腰をようやく上げ、ミラーレス市場に本格参入したのは2018年のことだった。
 だが、時すでに遅し。2019年のミラーレスの生産台数は首位のソニーが165万台に対して、ニコンはわずか28万台。ライバルのキヤノンも94万台を生産しており、ニコンの一人負けは鮮明だ(テクノ・システム・リサーチ調べ)。

ソニーは「α」シリーズで独走

ニコンが収益柱の一眼レフで展開するフルサイズモデルとの食い合いを警戒して慎重だったのに対して、ソニーは一眼レフ製品を持たないことを逆手に取り、フルサイズのミラーレス機種やレンズに集中投資して一気にラインナップを拡大した。
 2013年には世界初のフルサイズミラーレス「α7」を、2017年には「α9」を発売し、2019年のミラーレスの世界生産台数シェアはソニーが41.8%と独走している(テクノ・システム・リサーチ調べ)。
 ミラーレスはレンズから入った光をイメージセンサーで電気信号に変え、ファインダーに表示するため、一眼レフと比べて撮影に若干の遅れが出てしまう。スポーツ競技など一瞬をとらえるような撮影には不向きだったが、ソニーはその欠点を「α9」で克服。高速処理を可能とし、一眼レフと同等以上の性能を実現した。
 テクノ・システム・リサーチの大森鉄男シニアアナリストは「α9が一眼レフにはない撮影体験を実現したことでカメラ市場の構造が変わり、(ミラーレスで独走する)ソニーが(デジカメ市場全体を牽引する)リーディングカンパニーになった」と話す。
 ソニーに対抗して、キヤノンも7月9日にフルサイズのミラーレスカメラ「EOS R5」を発表。フルサイズカメラとして初めて8Kでの動画撮影に対応した。スペック上ではソニーのα9を上回る性能を出しており、プロやハイアマチュアカメラマンから賞賛する声が相次いでいる。
 キヤノンのカメラ事業部門を率いる戸倉剛イメージコミュニケーション事業本部長は「(ソニーが圧勝している)今の状況を打破する役割がEOS R5にある」と対抗意識を燃やす。

カメラ三強体制は維持できない

ソニー、キヤノンという上位2社に対し、ニコンは6月にようやく一眼レフの最上位新機種「D6」を出したが、ミラーレスカメラでは出遅れが目立つ。損益面でも、2020年3月期と2021年3月期に合計100億円を投じて商品点数の絞り込みや生産拠点の再編、人員削減を進めている。
 事業運営費は2022年3月期までに2019年3月期比で500億円削減する方針だが、ミラーレスでどれだけ魅力ある差別化商品を今後投入できるかが復活のカギを握る。
 もっとも、デジカメ市場は2020年後半も冷え込みが続く見通しだ。ある業界関係者は「伸びが期待されていたミラーレスカメラの需要すら回復しないことに加え、カメラは(スマホカメラの高機能化で)プロ向けのみ(の商品)になっていく」と指摘する。
 コロナで加速したデジカメ市場の縮小がこのまま進めば、現状のソニー、キヤノン、ニコンという3強体制は維持できない。現状の構造改革だけでニコンが事業を継続できるのか。オリンパスのカメラ事業撤退を機に、カメラ各社の帰趨が注目されている

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