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7月も後半に差し掛かり、テレビや新聞は梅雨明けの時期について連日報じている。7月20日に奄美地方の梅雨明けが発表されたが昨年より7日遅く、全国的にも今年は過去の平均と比べて大幅に遅くなると見られている。確かに、専門家が利用する天気図を見ると、本州の梅雨が明けるのは7月27日以降になりそうだ。
梅雨の終わりを心待ちにしている人も少なくないだろうが、気象庁が発表する「梅雨明け」には注意が必要だ。通常梅雨明けは、7~8月初めに「速報値」として発表されるが、実はこの速報値は後で変更されることが多い。正確な梅雨明け日は、梅雨の季節が過ぎ再検証される「確定値(統計値)」だが、その発表時期は毎年9月初め頃になる。
過去5年間の関東甲信地方の速報値と確定値を見てみよう。
【2019年】速報値7月29日、確定値7月24日
【2018年】速報値6月29日、確定値6月29日
【2017年】速報値7月19日、確定値7月6日
【2016年】速報値7月28日、確定値7月29日
【2015年】速報値7月19日、確定値7月10日
速報値と確定値が一致している年もあるが、小さい年には5日間、大きい年には2週間弱もの開きが見られる。この傾向は他の地域でも同様だ。
なぜこのような事になるのか。そもそも梅雨明けとは、梅雨前線が北上し、日本の上空に亜熱帯の気団が広がること。日本の気候は、春・秋・冬は「温帯気候」、夏は「亜熱帯気候」に属しており、温帯気候から亜熱帯気候に変わる際には数日を要するため、日にちを特定するのは難しいのだ。加えて、単なる気圧配置だけでなく、梅雨明け後の約1週間は晴天が多くなるという「社会通念」があることから今後の降雨量まで考慮する必要がある。これらが、発表時期を難しくする要因となっている。
このため気象庁は、速報値発表の際「梅雨明けしたとみられる」という曖昧な表現を用いる。しかしその一方で、メディア側はかつて「梅雨明け宣言」という断定的な表現で報じていたこともあったし、今でも「九州南部で梅雨明け」などという報じ方のままだ。
分かりづらいと感じる人が大半だろう。速報値・確定値と、数値が2つあることもその原因に思える。だが、梅雨が明ける前の7月中旬以降に晴れの日があると、気象庁には観光地などから「梅雨明けはまだか」という問い合わせが殺到するという。今年は新型コロナウイルスの影響で観光地などへの旅行は控えられているが、例年であれば梅雨明けは本格的な観光シーズン開始の合図となるからだ。また、梅雨明け発表後に雨が降った時も、気象庁に苦情が寄せられることもある。社会のニーズと判断の難しさから、速報値と確定値の2つを設けているのだ。
確実な梅雨明け日が分からなければ、天気予報を参考にするしかない。おすすめは、日本気象協会やウェザーニューズなどの民間気象会社が発表する「週間天気予報」や「10日間天気予報」だ。雨雲の動きなど、発表する気象会社などによって気象庁の予報とは異なることがある。
必ずしも確実とはいえない梅雨明け発表よりも日本気象協会やウェザーニューズなどの民間気象会社が発表する「週間天気予報」や「10日間天気予報」をお勧めしたい。週の後半など先の予報になると、発表する気象会社などによって気象庁の予報とは異なることがあるからだ。民間気象会社の中には気象庁だけでなく、海外の気象機関の計算結果を利用しているところもある。特に、天気の動きを左右するとも言える上空5500m付近の大気の状態において、欧州中期予報センターの予報精度は最も秀でている。天気予報に違いが出るのはこのためだ。
とはいえ、毎回の計算結果において、気象庁の予報がいつも負けているわけではない。気象庁の予報を参考にしつつも、各気象会社の予報と比較することで、梅雨明け後の天気の情報は一層充実したものになるだろう。
【プロフィール】たんげ・やすし/気象予報士。日本気象予報士会東京支部長。著書に『気候で読む日本史』(日経ビジネス人文庫)、『気候文明史』(日本経済新聞出版)、他。
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