■収穫の大半処分
「自然が相手だから仕方ないが、まだ受け止められない」。18日、球磨(くま)川中流にある熊本県あさぎり町の葉タバコ農家の平川勇さん(56)は、片付けが一段落した畑を前に表情を曇らせ
激しい雨となった4日早朝、自宅から車で15分ほどの畑を見に行った。球磨川の支流があふれて畑に水が流れ、収穫用の機械を高台に動かすのが精いっぱいだった。雨が収まった同日夕には300アールのうち170アールが冠水し、泥や流木などが流れ込んでいた。平川さんは「湖のようだった。あまりにも状況がひどく、言葉を失った」と振り返る。
収穫の最盛期の夏に全体の5割以上の収量を見込んでいたが、大半を処分せざるを得なくなった。畑には泥が残っており、病害が発生し、来年以降に影響が残る可能性もあるという。
同県の昨年の葉タバコの作付け面積は9万8000アール、売り上げは約58億円で、いずれも全国トップだった。球磨地域の作付け面積は約4万6000アールと県内の半分近くを占め、豪雨による県内の葉タバコ被害は約3億2800万円(20日時点)に上る。県たばこ耕作組合の中山義秀参事は「農地が元に戻るには、数年単位の時間が必要だろう。高齢の農家も多く、再建への意欲を失いかねない」と語る。
■ハウス内に泥
県内有数のかんきつ類の産地・芦北町では、デコポンの被害も深刻だ。
同町の浜本義則さん(63)は、土砂をかぶったデコポンの木を前に「どうにもならん。手のつけようがない」と途方に暮れる。
裏手の山が4日朝に崩れ、ビニールハウス6棟(約15アール)に土砂が流入し、一部は倒壊した。来年1月の収穫に向け、青い実がつき始めたばかり。不要な実をつむ摘果の時期だが、今もハウス内に泥が積もり、奥まで入れない。20年以上の栽培経験がある浜本さんは「こんなことは初めて。1本でも多く無事だといいが……」と不安そうに語る。
県などによると、2018年のデコポン(品種・不知火)の収穫量は全国1位の2万2344トンで、全体の約4割を占める。同町では、約380戸が計3万4000アールでデコポンを中心に栽培している。
県やJAが被害の調査を進めるが、農地への道が寸断されるなどしているため、調査が難航し、全容はわかっていない。町農林水産課は「打撃を受けた多くの農家が農業を継続できるよう支援したい」と話した。
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20日時点の熊本県の被害は、田畑への土砂流入など農業関係が計約241億円、山腹崩壊など林業関係が計約144億円などとなっている。同県以外の農林水産業被害は、福岡県60億8000万円、大分県36億2100万円、宮崎県34億3100万円など。
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