[STOP ネット暴力]実名拡散 いじめ激化…中学で標的「今も生き地獄」
[読者会員限定]
インターネットのSNSや掲示板などで、子供たちが同級生らの中傷を書き込む「ネットいじめ」が増加している。スマートフォンの普及が背景にあり、中学時代に標的にされ、現在高校3年になった埼玉県川口市の男子生徒(17)は、今も当時の記憶に苦しむ。専門家は、SNSとの向き合い方に関する学校教育を充実すべきだと指摘している。(田口直樹)
同級生ら特定し提訴
「不安は消えない。また悪口を書かれるかも……」。男子生徒は取材に、消え入りそうな声でつぶやいた。昔の記憶がフラッシュバックし、過呼吸に陥ることがある。昨年1月には心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
いじめのきっかけは無料通信アプリ「LINE(ライン)」だった。生徒は2015年春の中学入学直後からサッカー部に入ったが、多くの部員が入るLINEグループから外された。担任教師が部員らを注意したところ、「告げ口された」と逆恨みされた。部内で無視され、理由なく顔を殴られたこともあった。
母親は学校側に相談したが状況は改善されず、生徒は中学2年の秋、自宅で手首を切った。大事には至らなかったが、その後は不登校に。3年生に進級して何とか登校を再開したが、いじめは続き、通学靴の裏に「しね」「うざ」とペンで書かれたこともあった。
◇
学校は17年10月、生徒のいじめ問題で保護者会を開いたが、いじめの有無を明確にしなかった。すると、ネットの掲示板で実名をさらされ、中傷され始めた。
<最悪かよ><保護者が過保護でモンスター>。2か月後には中傷の書き込みが約3000件に膨らんだ。
<自転車に乗っているのを見た>。こんな行動を監視するかのような投稿まで現れ、生徒は恐怖で外に出られなくなった。中学卒業の頃には、<一生いじめられっ子>と書かれた。
「安心できる場所はなく、このままでは頭がおかしくなる」。母親は投稿者を特定しようと立ち上がり、弁護士に相談。生徒がいじめ被害者とわかる内容の投稿があった掲示板サイトの管理者に、IPアドレス(ネット上の住所)の開示を請求した。その情報開示を受け、18年6月、プロバイダー(接続業者)3社を相手取り、4件の投稿について発信者情報の開示を求めて提訴。東京地裁は同年12月、「いじめを受けた事実は無限定に広まると偏見や中傷を招きやすい」としてプライバシー侵害を認定し、投稿者情報の開示を命じた。
◇
投稿していたのは、同級生2人と別の同級生の父親の計3人だった。うち同級生1人とは解決に向けた話し合いが進んだが、2人とは解決が望めないとして、生徒は昨年5月、2人を相手取って計約160万円の損害賠償を求めて提訴。その後、和解が成立した。母親は「裁判は時間がかかるが、相手を特定することで他のネットいじめの抑止にもつながってほしいとの思いもあった」と振り返る。
ただ、昨年秋の生徒の誕生日、母親は偶然、生徒の部屋でノートを目にした。「俺今日で17才だけど生きじごく」とつづられており、今も学校側への不信感がぬぐえず、心の傷が癒えない息子を思い、たまらない気持ちになった。「悪質なネット中傷の厳罰化や制限を進めて、対策を講じてほしい」。母親は訴えた。
被害10年で3・6倍
文部科学省によると、全国の小中高校などが認知したいじめのうち「パソコンや携帯電話などでの中傷や嫌がらせ」は2018年度、過去最多の1万6334件となった。08年度(4527件)の3・6倍に上る。
自ら命を絶つケースも相次いでおり、16年に自殺した青森市立中学2年の女子生徒は、SNSで容姿の特徴を捉えたあだ名を流されるなどした。16年に自殺した山口県立高校の男子生徒と18年に自殺した福岡県立高校の男子生徒は、ともに部活のLINEグループから外されていた。
ネットいじめに詳しい山形大の加納寛子准教授(情報教育学)は「SNSなどのネットいじめは連絡を取り合う当事者以外には見えづらく、周囲が把握しにくい」と指摘。「情報を使いこなす能力を高める学校教育が重要だ。『この情報は本当なのか』と想像力を働かせ、『読んだ相手はどんな思いをするだろうか』と思いやる癖を子供たちに身につけさせるべきだ」と話している。
春名さん中傷 投稿者と示談
女優の春名風花さん(19)がツイッターでの中傷で名誉権を侵害されたとして神戸市の男性を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、男性が示談金約315万円を支払うことで和解したことがわかった。裁判外の和解で16日付。春名さんの代理人を務める田中一哉弁護士が明らかにした。
男性は2018年10月、匿名で「春名風花の両親自体が失敗作」などとツイッターに書き込んだ。春名さんはツイッター社やプロバイダー(接続業者)などへの開示訴訟で男性を突きとめ、今年1月、男性に約265万円を支払うよう求め、横浜地裁に提訴していた。
0 件のコメント:
コメントを投稿