「選手村がクラスター(感染者集団)化したら、いったい誰が責任を取るんですか。海外からやってきたアスリートが来日して感染し帰国したら、日本の信用が失墜してしまいます」
日本維新の会の馬場伸幸幹事長は、開催強行は危険だと指摘する。
米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、世界中で感染者は1400万人、死者は60万人を突破した。また、ワクチンの開発が五輪までに成功したとしても、世界各国に供給できる見通しは立っていない。日本共産党の畔上三和子都議は早めの判断が必要だと訴える。
「南米とかアメリカ、アフリカもすごい感染者数です。世界中で広がっています。IOCにすべての決定権があるのですから、WHO(世界保健機関)などにも確認して、早く判断を出してもらいたいと思います」
そもそも、どうして延期は1年となったのか。
組織委関係者によると、組織委は2年延期を考えていたが、安倍晋三首相が1年延期を選んだ。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は理由をこう話す。
「安倍さんの首相の任期は来年9月まで。自分が首相の間に東京五輪を開催したいという思いから、延期は1年まででした。2年延期には興味がなかったのです」
3千億円とも言われる、延期に伴う追加費用の負担でも問題が生じている。
1年延期は、安倍首相とIOCのバッハ会長が3月24日に電話協議して合意した。元東京都職員で、東京五輪招致推進担当課長だった鈴木知幸氏(国士舘大学客員教授)は、こう話す。
「IOC関係者は中止の懸念をほのめかすことで、安倍首相からの延期の提案を待ったんです。安倍首相に先に申し出るように仕向けたんです」
しかも、IOCは追加費用について最大で8億ドル(約858億円)しか払わない意向だ。つまり、負担の多くは日本側が請け負うことになる。
では、誰が払うのか。コロナ禍で多くの企業の業績が悪化する中、組織委は国内スポンサーとの契約延長で苦戦が予想される。都はコロナ対策で、自治体の貯金にあたる財政調整基金を9割取り崩した。ともに追加費用を払える余裕はない。
前出の鈴木氏はこう説明する。
「五輪の経費的な問題はちゃんとIOCとの契約書の中に書いてあります。組織委の資金がなくなったら、東京都が補てんします、東京都の資金がなくなったら国が補てんします、
と書いてあります」
来夏開催を公約に掲げて都知事選で圧勝した小池知事も、結局は国頼み。つまり、国民が負担を強いられるということだ。
自民党都連の関係者は、小池知事の「五輪の政治利用」について、こう語る。
「東京五輪が開けなかったからといって、ご本人の原因とは言いませんけど、今まで五輪を活用して自分の立場を作ってきましたから。五輪が最大の売りなんです。そういう点から言うと、(中止となれば)大きなダメージを受けるでしょう」
開催中止はあるのか。IOCは可能性が十分にあることを分かっている。バッハ会長は5月20日、英BBCのインタビューで、来夏開催が無理になった場合は(再延期ではなく)中止にする見通しを示した。ワクチン開発を開催条件にするかは明らかにしなかったが、「WHOの助言に従う」とも発言した。同月22日にはコーツ調整委員長が豪オーストラリアン紙で、開催可否を評価する時期は10月ごろになるとの見通しを語った。
こうした発言に危機感を抱いた日本側は6月、大会簡素化を打ち出し、来夏開催に向けた工程表を示した。IOCも中止論を打ち消し、歩調を合わせた。
だが、IOC古参委員のパウンド氏は今月、ロイター通信に対し、来夏開催が中止となった場合は22年北京冬季五輪の開催も難しいとの見通しを語り、再び東京五輪の中止論が浮上した。
「もし先に、東京が『中止』を言ったら、日本側に賠償が発生する可能性があります。だから、開催も中止も、そう簡単にはことは進みません」(前出の角谷氏)
朝日新聞社が7月18、19日に行った全国世論調査によると、大会開催について「来夏」が33%、「再延期」が32%、「中止」が29%で、再延期と中止を合わせると計61%に上った。国や都、組織委が進める来夏開催について、多くの人が消極的であることが改めて明らかになった。
本来なら今年、聖火リレーを走るはずだったタレントが所属する芸能事務所の担当者はこう話す。
「地元を走る予定でした。とても名誉なことだし、楽しみにしていたんですが、『しょうがないですね』と気持ちを切り替えています。スケジュールの問題もあるので、来年の聖火リレーに参加できるかは未定です」(本誌・上田耕司)
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