英製薬大手・アストラゼネカと英オックスフォード大学が共同開発中のワクチンの初期臨床試験(治験)結果では、2回の投与を受けた被験者全員に免疫反応が確認された。深刻な副作用は出なかった。 中国カンシノ・バイオロジクス(康希諾生物)<6185.HK>と人民解放軍の軍事科学院が共同開発しているワクチンの中期治験でも、安全性が確認されたほか、1回の投与を受けた健康なボランティア508人の大半で免疫反応が起きた。
被験者の約77%に発熱や注射部位の痛みなどの副作用が出たが、重篤なものはなかったという。
アストラゼネカとカンシノのワクチンはともに、アデノウイルスをベクター(遺伝子の運び手)として利用する。どちらも研究結果は英医学誌ランセットで報告された。
米ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生学大学院のワクチン専門家、 ナオール・バルジーブ氏とウィリアム・モス氏はランセットに「両治験の結果は総じて類似しており、有望だ」とコメントした。
ただ、カンシノのワクチン候補の治験では、同ワクチンで使われるアデノウイルスに感染したことがある被験者は免疫反応が弱いという結果が再び示されており、研究者らは克服すべき「最大の障害」とした。
一方、独バイオ製薬ベンチャーのビオンテック<22UAy.F>と米製薬・ファイザーが共同開発中の、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ぶ遺伝子を使う別のタイプのワクチンについて、ドイツでの小規模な治験で得られた追加データが公表された。 未査読の研究論文によると、60人の健康な成人を対象にした治験で、2回の投与を受けた被験者は体内でウイルスの働きを中和する抗体をつくることが確認された。米国での初期治験と同様の結果となった。
先週には米モデルナが開発中のコロナワクチンについて、米国の研究者チームが、初期段階の研究で安全性が示されたほか、健康なボランティア45人全員に免疫反応が見られたとする報告書を公表している。
世界保健機関(WHO)の元事務局長補で現在は仏研究機関インセルムに所属するマリー・ポール・キーニー氏は「これら全てのワクチンが体内で抗体をつくるとみられるのは勇気付けられる」と評価。「科学が急速に進展しているという証拠で、良い兆候だ」とした。
<長い道のり>
歴史的に見て、特定の病気のワクチン候補のうち実用化されるのはわずか6%で、数年間の臨床試験が必要とされることもよくある。コロナワクチンを巡っては、製薬各社は急ピッチで治験を進め、早期に量産を始めたい考えだ。
複数のメーカーは年内の実用化に向け、米政府の支援を得ている。
オックスフォード大とアストラゼネカが共同開発するワクチンは、世界で開発中の150のワクチン候補の1つで、研究が最も進んでいると考えられている。後期治験はブラジルと南アフリカで始まっており、米国でも予定されている。
AZD1222と呼ばれる同ワクチン候補は、T細胞と呼ばれる免疫システム反応を引き起こすことも確認された。
最近の研究では、新型コロナ感染症から回復したものの抗体検査で陰性となった一部患者が、新型コロナ感染症への体の反応としてT細胞が発生・成長していたことが示された。研究者らは、抗体に加えてT細胞の働きも、有効なワクチンにおいて重要性が高いと考えている。
WHOの緊急事態対応を担当するマイク・ライアン氏は、T細胞およびウイルスの働きを中和する抗体の両方の反応が引き起こされたのは前向きな結果だとした上で、「道のりは長い」と述べた。
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