2020年7月24日金曜日

棋聖戦第2局の感想戦に臨む藤井聡太。盤上3一の地点に銀が置かれている© スポーツ報知/報知新聞社 棋聖戦第2局の感想戦に臨む藤井聡太。盤上3一の地点に銀が置かれている ◆20年6月28日 渡辺明棋聖戦
 「AIを超えた」と語られた一手における藤井聡太の思考を体感してみたい。図は、タイトル獲得に王手を掛けた棋聖戦第2局の中盤58手目の局面。先手の渡辺明が打った▲6六角が2二の地点にいる金取りになっている。
 高精度AIに局面を検討させると、数秒で△3二金と逃げる手を最善手、△3三桂と遮断する手を次善手に導き出した。しかし、約10分間ほど深く思考させると人間の常識にはない一手が示された。17歳が23分の考慮で着手した△3一銀である。
 先手陣は堅く、バランスにも優れる。攻略のために攻め駒の銀は温存しておきたい局面だが、惜しみなく受けに投入した。まだ評価値は「互角」の前後で揺れ動いていたが、不思議と△3一銀以降の数手で一気に後手優勢へと変移していった。昨期の最優秀棋士からの完勝譜は頂点へのラストステップになった。
 棋聖になった藤井に、△3一銀の自己評価を聞いた。「評価値や候補手は使用(コンピューター)ソフトや探索局面数によってかなり変わってくるものですので、ソフトの評価は一概に(正しいと)言えるものではないのかなと思っています。手の広い局面ではあったのですが、自分なりに決断できたことはよかったのかなと思います」。観戦する側も、時には棋士たちも評価値に依拠して将棋を語ろうとする現代への冷静な批評にも聞こえた。
 若き棋聖は語る。「盤上の物語の価値は不変。価値を伝えられたら」。その言葉には棋士としての覚悟が表れている。(北野 新太)=敬称略、おわり=

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