2020年8月13日木曜日

8月13日 編集手帳


 “財界総理”とうたわれた元東芝社長・石坂泰三は、定期健診を嫌って周囲を困らせたという。僕の体のことは僕が一番わかっている。15分や20分診た医者にわかるもんかと◆城山三郎の小説『もう、きみには頼まない』(文春文庫)に出てくる。伝説の経団連会長の気骨を示す逸話がやや危うく思えるのは、健診の価値観が昭和の一頃とはずいぶん変わったからだろう◆春の健診は新型コロナウイルスの影響で、職場や学校から姿を消したり、延期されたりした。自身の体を知る機会を失しながら、酷暑の夏を迎えた方は多いことだろう◆目の前の感染危機が、いかに以前の環境を変えたかを物語る数値を見かけた。自治体が行うがん検診は5月、受診者が去年の8%にとどまったという。発見の遅れる人が増えないか懸念が膨らむ。石坂はもともと健康な人らしく、検査に関心を払わなくても88歳の天寿を全うした。だが現代は健康に自信のない人も、検査制度を十分に使うことで長生きできる時代だろう◆技術は日進月歩で、今や胃がんの兆候が血液検査で知れるほどである。15分や20分の時間を大事にしたい。

8月12日 編集手帳



 にぎやかな応援もなければ、声援が響くこともない。負けても勝っても1試合のみの今年の甲子園だが、例年と変わらない景色をあげれば、グラウンド整備だろう◆土ならしのプロ「阪神園芸」の職員が炎天下に一斉に駆けだし、トンボを滑らせる光景である。ふと、守備の選手の前を横切ったりする空飛ぶトンボは、今夏はどうしたのだろうと思った。テレビで試合を見ているうちには1匹も映らなかった◆以前、調べたことがある。8月の中旬に目立つのはウスバキ(薄羽黄)トンボだという。お盆に群れをなすことから「精霊トンボ」と呼ぶ地方もある◆かつて「気流」欄に載った京都市の女性の投稿を思い出す。<私の住む団地の狭いベランダに5匹のトンボが来ました。戦禍を逃れ、学童疎開中の宿舎で父の死を知ったのが8歳の時。17歳で母が逝き、私が生まれる前に夭折ようせつしたという兄姉3人。5匹のトンボさん、よく来てくれました。もう、お盆の時期なんですね>◆ウスバキトンボは夏前半に気温が低いと、羽化がおくれるらしい。早く飛び交ってほしいものである。ベランダで待っている人がいる。

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