高齢者は、年とともに太ろう
年をとれば、やせてきても当たり前と考えてしまうかもしれませんが、実は高齢者の場合には、むしろ太っていたほうが、要介護や死亡のリスクが少なくなることがわかってきました。では高齢者はどれくらい食べればよいのでしょうか。
高齢者は軽い肥満の方が死亡のリスクが低い
日本人の高齢者(65~79歳)を11年間フォローした研究では、やせている人よりも太っている人のほうが死亡のリスクが低くなることがわかりました。身長と体重から算出されるBMI<体重(kg)/身長(m)の2乗>という数字が体格の指標としてよく使われます。一般的には「22」が標準、「25」を超えると肥満、「18.5」を下回るとやせとされていますが、高齢者の場合、女性は軽度肥満(BMI 23~24.9)、男性は中等度肥満(同27~29.9)の人がもっとも死亡のリスクが低くなります。
海外でも同様の報告がされています。アメリカでの研究では、高齢者は軽度肥満(BMI 25前後)の人がもっとも要介護になりにくく、中等度肥満(BMI 27前後)の人がもっとも死亡のリスクが低くなっていました。高齢者の場合、標準体形といわれるBMI「22」だと、BMIが「27」の人と比べて死亡のリスクが1.4倍になることもわかりました。
年齢とともに太っていくのが、安全な年の取り方!?
茨城県で行われた大規模な研究では、年齢とともに少しずつ体重を増やしていくのが、安全な(死亡のリスクの低い)年の取り方であることがわかりました。
60代では男性はBMI「25.1」、女性はBMI「22.8」、70代では男性「25.5」、女性「24.1」がもっとも死亡のリスクが低くなります。私たちが標準としてきた「22」というBMIよりもかなり大きな数字です。
つまり、高齢者は年齢とともに少しずつ太っていくのが安全な年の取り方、ということがわかってきているのですが、日本では全く逆のトレンドがあります。高齢者は年齢とともにどんどんやせていくのです。
日本人高齢者の6割はやせ過ぎ
たとえば、在宅療養している高齢者の平均BMIはなんと「18.1」であることがわかっています。安全な「太めの高齢者」はわずか4%、やせとされる「18.5」よりもマシな人を全部合わせても40%しかいませんでした。
日本の在宅高齢者の実に6割は、BMI「18.5未満」の、やせすぎの状態なのです。BMI「16未満」の重度のやせの人が28%もいることもわかりました。先に紹介した死亡リスクのデータによれば、高齢者のBMIが「16」を下回ると、女性の場合、BMIが「22」の人と比較して何と2.6倍になります。
同じくアメリカからの報告によれば、入院した高齢者の場合、入院時の栄養状態によって、退院後の生存期間が大きく影響を受けることもわかりました。入院時に栄養状態がよかった高齢者は、年齢・性別・入院の原因となった病気の種類によらず、入院時に低栄養だった高齢者に比較して、3年後の生存率が4倍も高いことがわかりました。
どんな名医にかかっても、どんなに高級な薬を飲んでも、実は死亡のリスクはたいして変わりません。でも、やせている人はしっかり食べて体重を取り戻すだけで、死亡のリスクが半分以下に下がるということです。
特に高齢者の場合、まずはしっかりと食べて体重と筋肉を守ることが、より効果的な健康管理の方法だと断言できます。(佐々木淳 訪問診療医)
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