2020年8月4日火曜日

PR Image Factory/Shutterstock.com© 女性が男性よりも軽度認知障害になりにくい理由とは PR Image Factory/Shutterstock.com (本記事は、加藤俊徳氏の著書「脳が若返る最高の睡眠 寝不足は認知症の最大リスク」小学館の中から一部を抜粋・編集しています)
■ 日本の女性の睡眠時間は世界一短い
経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査では、「不眠大国」である韓国を抜いて日本が世界で最も睡眠時間が少ないことが指摘されました。ちなみに日本の女性が1番、2番目に睡眠時間が短いのは日本の男性でした。よって、日本人の睡眠時間が世界一短いのも当然です。
下図1にあるように「平成29年 国民健康・栄養調査結果の概要」(厚生労働省)の報告では、日本の女性の睡眠時間は劣悪です。この20歳以上の睡眠時間の概要から最も寝不足に陥っている40〜49歳の男女の統計を抜粋しました。子どもが小学校高学年になる頃の40〜49歳の女性の52.4%が6時間未満の睡眠であることが分かります。同じ睡眠時間の男性は48.5%ですから、更年期に差し掛かる時期の女性に劣悪な寝不足が続いていることが分かります。

例として、3歳の子どもを持つ40代の母親の生活パターンを述べます。
朝6時に起きて、洗濯をして、朝食を作って、自転車の後ろに子どもを乗せて保育園に送り届ける。それから出社して、仕事。子どものお迎えは、18時から19時。その後、買い物、料理、食事、入浴、食事の後片付けと、家事が続き、子どもを寝かし付けて、明日の準備をすると、就寝は24時。この生活で、睡眠時間は6時間です。
「小さな子どもを育てながら働いている母親の睡眠時間は、6時間以内になってしまう」ということが、多くの母親の生活パターンです。
そして、子どもが小学校に入ると、習い事に付き合うことでさらに忙しくなります。スイミング、サッカー、ピアノなど。そして学習塾への子どもの送り迎えでへとへとです。
さらに、母親の寝不足は、子どもが中学生・高校生になるまで続きます。中高生の子どものために、昼のお弁当を作る必要があります。
しかも中高生の在校時間は小学校時代より長いことが多いのはご存じの通りです。運動部の部活動に入り、朝練などがある場合、母親は、その分朝早く起きて、準備をしなければなりません。子どもが高学年になり、受験勉強などが重なれば、子どもたちは夜遅くまで勉強するうえに、母親は精神的にも気を遣うことで、自身の快眠を阻害する要因にもなり得ます。
■ 女性の寿命の長さには質の良い睡眠が関係している
このように、日本の女性が世界一の寝不足状態である一方で、厚生労働省が2018年に発表した「平成29年簡易生命表」によれば、平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.26歳と女性のほうが約6年長く、過去最高を記録しています。健康寿命も2016年のデータで男性72.14歳、女性74.79歳とこれもやはり女性のほうが約22年以上長いのです。
私は、女性の睡眠の質のよさが、女性の長寿の理由ではないか、と考えています。
簡単に言うと、夜中に目が覚めることなく、深い眠りにつける。すなわち、女性は睡眠時間が短くとも効果的に睡眠をとることができるということです。
ではなぜ、女性の睡眠は男性の睡眠より優れているのでしょうか?
女性は出産・育児・生理周期などがあり、男性に比べて、一生を通じて女性ホルモンが激しく変動します。その変動により、睡眠が大きく影響されます。
まず、女性の生理は、平均で約12歳から始まり50歳ぐらいまで毎月続きます。生理後の2週間は女性ホルモンの「エストロゲン」の効果でぐっすり眠りやすく、排卵期には、もう1つの女性ホルモンの「プロゲステロン」のパワーで、昼間も眠い時があります。この2つの女性ホルモンは、妊娠の準備をするために働いているのですが、同時に、睡眠の質を高める効果を持っているのです。一方、男性ホルモンの「アンドロゲン」は、レム睡眠には効果的に作用しますが、女性ホルモンほどの睡眠パワーは期待できません。
さらに女性には、妊娠と子育てがあります。妊娠が進むにつれて、おなかの中の子を育てるために、2つの女性ホルモンが分泌されます。それまで、生理周期によって交代で分泌されていた女性ホルモンが同時に出ることになり、そのパワーで、妊娠中の女性はよく眠れるのです。
■ 出産後と閉経が女性の睡眠を一時的に乱す
女性は胎児がおなかにいる時はよく眠れていても、出産後は状況が一変します。胎盤が娩出(ベんしゅつ)され、女性ホルモンの分泌が激減します。さらに授乳が始まり、母親は寝不足に陥りやすくなります。こうして、「産後うつ」を発症しやすくなります。産後うつは、日本女性心身医学会の調査によれば10〜15%の女性が出産後に罹患しているとのことです。
出産時期を過ぎ、次の大きな変化は閉経です。これまで、女性を眠らせていた2つの女性ホルモンの分泌が下がりはじめます。このために起きるのが、更年期障害です。ほてりや頭痛・便秘・めまい・肩こりなどとともに、不眠の症状を訴える人が多くなります。これまで女性を眠らせていた強力なパワーがなくなるのですから、寝不足の人が多くなるのは、当然のこととも言えます。
女性の睡眠は、加齢に伴う女性ホルモンの変化によって、大きく左右されます。
産後期間と閉経期は特に、エストロゲンの欠乏により、うつ病のリスクが高くなると言われています。
■ 女性よりも男性は軽度認知障害(MCI)になりやすい
女性の睡眠が男性の睡眠よりも優れている理由に戻りましょう。前節でお話ししたように、更年期(平均で約50歳)までは、女性ホルモンのパワーで女性は男性よりも睡眠の質が高くなり有利です。

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