8月4日 編集手帳
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歌人の穂村弘さんに次の歌がある。<曲がっても曲がっても曲がっても曲がっても眩しい夕陽が正面にある>(『水中翼船炎上中』講談社)。猛暑の日の強い西日が頭に浮かんでくる◆きのうは全国各地で真夏日になった。関東地方もよく晴れて、十数分歩く間にマスクのなかが汗まみれになった。そのときふと、何年か前に話題になったスマートフォンのアプリを思い出した◆目的地まで行くのに、太陽の高さを計算して日陰の多い道を案内してくれるという。ところが検索してみると、今は使用中止となっていた。コロナ禍の今年の夏なら重宝されたのではないかと、少し残念に思った◆先日、つえをつきながら歩道を歩く高齢の男性を見かけた。マスクで息苦しいのか、立ち止まっては鼻の部分を下げて深呼吸していた。きまじめな人なのだろう。人通りはまばらなのに、駅までの道でマスクを外すことはなかった◆“新しい日常”とともに迎えた夏は体力に乏しい高齢者にはかくも厳しい。沈みかけの夕陽でさえ容赦なく熱を注ぐ。マスク着用があたかも外出の際の義務であるかのような風潮を考えてしまう。
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